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貴乃花親方「本当に負けられないときは、自分の人生をかけて、その場に居座ることが大切」

[2011年11月21日]

平成の大横綱、貴乃花が今、若い世代へ伝えたいメッセージ。相撲とは、人生とは何か、静かに語る

空前絶後の相撲ブームを巻き起こし、残した伝説は数知れず。現在は日本相撲協会の理事にして、審判部長の要職にある貴乃花親方。今、平成の大横綱が語る、相撲のこと、自分こと。

***

大相撲九州場所に向けて、今年10月、福岡県田川市に宿舎を構えた貴乃花親方。完成したての九州宿舎で朝稽古を見学した後に、インタビューが始まった。

―初めて朝稽古を見学したんですが、本気でびっくりしました。思った以上に激しかったので。

貴乃花 相撲って、基本的に頭から全力でぶつかり合うんですね。しかも、デカい体同士が裸でぶつかり合うんです。こんな競技なんて、相撲以外にないんですよ。

―確かに。稽古の時は、どのあたりを見られているんですか?

貴乃花 基本姿勢ですね。心と体の軸がブレていないかどうか。今日見ていただいたとおり稽古はかなり激しいので、半分、脳振とう状態で戦うわけです。

―頭と頭がぶつかるたびに、ガン!という壮絶な音がしました。

貴乃花 そんな意識が飛んだ状態でも自然と体が動くように、基本を繰り返して体に覚えさせるのが稽古です。

―稽古中は親方から何度か厳しいゲキが飛びました。

貴乃花 ああ、いつものことですけどね(笑)。やっぱり性格的に弱い子がいるので、目に余った場合は叱ります。でも、それは、「おまえのこと、目にかけてるぞ」っていう意味もあるんですよ。

―ちなみに、親方が現役時代の朝稽古はどんな感じだったんですか?

貴乃花 時間は朝5時半から9時、10時までで、内容もほとんど同じなんですよ。ただ、土俵の外にいるときも、てっぽう、四股(しこ)、すり足……最初から最後まで動きまくってましたね。そうしてクタクタになったところで土俵に上がって本当の稽古が始まります。そこまでしないと「相撲力(ぢから)」というのが身につかないんですよ。

―現在、部屋にお弟子さんは何人いるんですか?

貴乃花 今は13人です。そのうちの4人が幕下にいます。

―幕下が4人もいるなら、部屋で初の十両力士も目前ですね!

貴乃花 いや、ここからが大変なんですよ。上に行けば行くほど番付は上がらなくなるんですが、一番大変なのが幕下から十両です。

―その十両に上がって初めて“関取”になれるんですよね。

貴乃花 そうです、そうです。給料がもらえるのも十両からだし、化粧まわしが作れるのもそう。人生が大逆転しますからね。昔、貧乏人が大富豪になる『大逆転』っていう映画がありましたが、まさにあんな感じ(笑)。とにかくメジャーに上がれるか、マイナーのままかという攻防戦ですから、みんな死に物狂いですよ。

―ところで、親方は食べ物にも気をつけられているとか。

貴乃花 もちろんです。けっこう見落としがちなんですが、実は食べる順番も大事なんですね。まずは、ちゃんこの温かい汁を飲んで五臓六腑(ごぞうろっぷ)に染み渡らせるんです。そうしないと、なかなか食べ物が効率よく吸収されないんですね。私は食べることも稽古だと思っていますから食育も大切なんです。

―徹底してますね。

貴乃花 食事はもとより、相撲には日本の伝統的な文化がたくさん入り込んでるんです。例えば、家族のあり方。今の日本は核家族化が進んでいますが、相撲部屋には昔ながらの大家族が根づいています。後援会の方々が祖父母、師匠と女将(おかみ)が両親、兄弟子と弟弟子が兄弟です。よくできてますよ。

―言われてみれば、そうですね。

貴乃花 また、いわゆる長屋文化でいう近所付き合いが地域の方々との交流です。特に、地方場所では地域の方々が自由に朝稽古を見学に来ますし、地元のイベントにも積極的に参加しています。そういう今の日本に失われているものが相撲にはたくさんあるんです。

―なるほど。そういう見方もあるんですね。では、13日から始まった「九州場所」に関する思い出を教えてください。

貴乃花 やはり一番の思い出は、1994年の九州場所で横綱昇進を決めたことですね。(ここで、親方に代わって女将さんの景子さんが語り始める)。

女将さん 実は、その前の9月場所でも全勝優勝をしてるんですね。幕内で6度目の優勝ということもあって、今回は横綱に昇進できるだろうとたくさんの方々が集まってくださったんですが、結果は見送りになってしまいました。

―それ、ものすごく覚えています!

女将さん その時に、先代(二子山親方。故・元大関貴ノ花)のときからお世話になっていた田川の後援会長さんが人目もはばからず男泣きされて……。その涙を見た親方が、「次も全勝して、絶対に獲るから」って。その言葉どおりに2場所連続で全勝優勝して、文句なしの横綱昇進を決めたのが94年の九州場所なんですよ

―親方! もうカッコよすぎですって!

貴乃花(照れくさそうな表情)

女将さん 稽古場に大きな優勝額が2枚飾ってあって、それが見送りになった9月場所と、昇進を決めた九州場所のものなんです。親方が「この地に飾りたい」というので、わざわざ東京から運んできたんですよ。

―しかし、1回全勝優勝することさえ至難の業(わざ)だっていうのに、2場所連続だなんて……。あらためて最敬礼です。

女将さん みんな全力で優勝を阻止するわけですからね。15日間、精神力と集中力を保ち続けることの大変さは私には想像すらできないです。

貴乃花 でも、人間は絶対に負けられないときって、勝負しようとすると負けちゃうんですよ。体も動かないし……。だから、本当に負けられないときっていうのは、自分の人生をかけて、その場に居座ることが大切なんですよね。

―その場に居座る……その深すぎる言葉を解説してください!

貴乃花 自分は「頑張れ」って言葉が嫌いなんですよ。なぜなら、誰だって生きていくために頑張ってるでしょう。私が弟子たちに言っているのは、「頑張れ」じゃなくて「踏ん張れ」なんです。つらくても今いる場所から逃げるんじゃなくて、そこに居座って踏ん張れって。

―なるほど。我々も踏ん張っていきたいと思います!

貴乃花 ぜひ踏ん張ってください(笑)。

***

インタビュー終了後、玄関先まで見送ってくださった親方と女将さん。取材班が車に乗り、角を曲がって姿が見えなくなるまで、ずっと手を振ってくださいました。

(構成/浜野きよぞう、撮影/西山奈々子)

貴乃花光司
1972年8月12日生まれ。第65代横綱。88 年3月場所初土俵。最年少入幕や最年少幕内優勝など記録多数。2003年に引退し、一代年寄「貴乃花」を襲名。10年に理事に初当選。次代の角界を背負って立つ若きリーダーとして期待されている。

貴乃花部屋公式HP【http://www.takanohana.net/

■貴乃花親方が相撲観、人生観を語る。週刊プレイボーイ連載コラム『職人気質(かたぎ)』

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