出版社VS石原都政がもたらした”アニメフェアの分裂”アニメ関係者たちの意外なホンネ

[2012年01月05日]


■石原都知事の”熱い挑戦状”

一昨年の2010年、マンガの表現の自由を奪うとして出版社や読者が大きな反対運動を起こした、東京都の「表現弾圧条例」こと「東京都青少年健全育成条例改定案」(以下、都条例)。

この条例案が可決する直前の2009年12月10日、出版社10社が加盟する「コミック10社会」は、去年の3月24~27日に東京ビックサイトで開催予定だった東京国際アニメフェア(以下、アニメフェア)をボイコット。それを受けて角川書店を始めとするアニメ関連8社が別にアニメコンテンツエキスポ(以下、コンテンツエキスポ)を開催すると発表し、「コミック10社会」はこちらに参加することになった。

アニメフェアは石原慎太郎都知事の発案で、2002年から毎年開催されてきた東京都主催のイベント。ここ数年は参加者10万人を超え、国際的にも注目されるイベントになっている。多くのアニメ作品の権利を持つ出版社が出展をボイコットした上、コンテンツエキスポ側が3月26~27日に幕張メッセで開催と、アニメフェアと同じ日程にぶつけてきたことで、アニメフェア側は「開催は実質的に不可能」と声明を出す事態にまでなった。

参加する多くのアニメ関連企業に大混乱を起こしたこの分裂騒動だが、結局、開催直前に起こった東日本大震災の影響で、両イベントとも中止となり、騒動は一旦終息した。

それから、10ヶ月あまり。都条例は施行されたものの、出版社や読者からのさらなる反発を恐れてか、実質的に機能していない状況が続いている。そうした中で「分裂」状態となった両イベントが2012年には、どういった形で開催されるのか、様々な憶測が流れていた。

10月24日、コンテンツエキスポが「2012年3月31日、4月1日の両日に幕張メッセで開催」されることが決定。アニメフェアは3月22日~25日に開催を予定しており、日程はバッティングしていないとはいえ、「分裂」はそのままのようだ。

このことについて、まずアニメフェアを管轄する都産業労働局に取材を申し込んだところ、
「東京都主催で実行委員長は石原慎太郎都知事ですが、ほとんどの部分は日本動画協会さんに委託しています。我々としては、事態の推移を見守って、決まったものについて報告を受ける形ですので……」
と、奥歯に物の挟まったような回答。要は「こちらに聞かれても困る」ということらしい。

ならばと、石原都知事に直撃してみたところ「お客さんにとって二度手間になるから気の毒」と前置きした上で、
「両方ともよければいいじゃないか。どちらに客が来るか来ないか、勝負だ!」
と、熱い挑戦状? を叩きつけられてしまった。

■「分裂」がもたらす”プラス効果”とは?

この「分裂」を、双方の主催者はどう考えているのか? コンテンツエキスポを代表して取材に応じた、アニメ製作会社・アニプレックスのプロデューサーである高橋祐馬氏は言う。

「日程がバッティングしてしまったのは、あくまで偶然です。開催可能なイベントホールを探したところ、あの日に幕張メッセしか空きがなかったからです。分裂開催とか、いわれていますけれどアニメフェアを潰すことが目的で開催するのではありません。その都度、コンテンツエキスポ側の関係者と連絡を取りながら準備を進めています」

開催決定の経緯から、都条例に反対して「分裂」したイベントと見られているコンテンツエキスポ。しかし、高橋氏は、その見方も否定する。

「コンテンツエキスポ開催を支持してくれたファンの思いを報いたいんです。利益が目的のイベントではありません」

高橋氏は言葉を選びながらも、あくまでイベントと都条例の問題は別物だと語った。そして、アニメ業界の意識を代弁する言葉も漏らした。

「我々は、映像メーカーですから、(ボイコットは)条例の問題以前に、出版社と歩みを共にするという意識が強かったんです」

一方のアニメフェア側もスタンスは、ほとんど同じだ。アニメフェア事務局のチーフプロデューサー・鈴木仁氏は語る。

「ファンのニーズがあるにも関わらず、条例改正の騒動で出版社が参加しないだけはなく、キャラクターの使用を止めさせた結果として、同じ屋根の下でできなくなってしまったという意識しかありません。なので、”分裂”ではないです。(コンテンツエキスポ側の各社とも)会う度に、どうしようかなと、話してますよ」

とはいえ、鈴木氏はむしろイベントがふたつに別れたことに、プラスの作用があると考えているようだ。

というのも、一昨年までのアニメフェアでは、家族連れの来場者と、一部のイベントなどを目当てに開会と同時に殺到するオタクという目的のまったく異なる来場者が入り交じり、主催者も困惑していたからだ。

「アニメフェアの出展社には、低年齢層からファミリー向けのものが多いんです。アニメコンテンツエキスポで扱われるようなアニメの出展社は、いつかはホールを分けなければならないと考えていたんです」

さらに、イベントの「住み分け」によって、集客力のアップも期待されている。

「2010年のアニメフェアは13万人の来場者がありました。ですので、今回は両方のイベントで16万人来場すれば成功だと考えています」

こうした状況は、アニメの製作現場ではどのように見られているのか。10月に行われた「第10回 東京アニメアワードコンペティション」の席上で「分裂の危機を回避していきたい」と発言し、注目を集めた、フジテレビの深夜アニメ枠『ノイタミナ』の山本幸治氏は言う。

「同日開催は正直“やめてよ”と思いましたよ。現場では、どっちにつけばよいのか混乱しましたし、お客さんが右往左往する事態になっていました。今回は日程がずれたことで、最悪の事態は回避されたのではないかと思っています」

取材から見えてきたのは、アニメ業界には「アニメは関係ないのに出版社のせいで、迷惑を被った」という意識があること。その上で、これをチャンスに変えてイベントの活性化を狙っているということだ。ただ、肝心のイベント内容の詳細は、まだ発表されていない。

ふたつのイベントが、ファンのニーズに応え、業界に意義のあるものになるかは、現時点ではまだわからない。

(取材・文/昼間たかし)

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