通称「カンパ禁止法」をご存知だろうか。聞いたことのない人も多いかもしれないが、実は今、自民党がこの法律で不穏な動きを見せているのだ。

このカンパ禁止法の正式名称は「公衆等脅迫目的の犯罪行為の為の資金の提供等の処罰に関する法律」。国連の「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約」を国内法化したもので、分かりやすく言うと、国際テロ組織への資金供与の禁止を目的としたものになる。

世界中でテロ組織が破壊活動を行なっている現在においては、一見、必要不可欠な法律にも思える。テロ組織の資金源を断つことが非常に重要なのは、言うまでもないだろう。

だが、2002年に成立したものの、今までに適用事例はゼロ。いわば、国際条約に押されて仕方なく作っただけで、本来は不要の法律ともいえる。

それにもかかわらず、昨年3月15日に“改正案”が閣議決定されているのだ。監視法案に詳しい山下幸夫弁護士が、この改正案の危険性を指摘する。

「改正案で恐ろしいのは、募金をした人も『テロ協力者』とされてしまうこと。つまり、あらかじめターゲットにしていた人物を捕らえるための口実にも使われかねない」

どういうことか? 実は世の中には、正体をあやふやにした募金が数多く存在する。たとえば、「パレスチナ難民のため」と謳(うた)った募金(カンパ)が、実は「対イスラエルのテロ組織」に流れることもある。

上記のような場合、改正前のカンパ防止法では“募金企画者”が逮捕され、募金した人はダマされていただけなので、当然のことながら無実だ。だが、山下弁護士が指摘するように、改正案では“募金者”も逮捕される可能性が出てくるのだ。

極端な例で言えば、警察がある人間を“ターゲット”にしたとしよう。彼が善意で、前述のような“偽の難民支援”の募金箱にお金を入れたとしても、瞬時に拘束することが可能になってしまうのだ。

警察や公安の恣意的な逮捕にお墨付きを与える――。特定機密保護法と同じく、一見必要不可欠だが、“悪用される隙(すき)”を持った法律の成立には、厳しい監視の目が必要だ。

(取材/樫田秀樹)