日本プロ野球での圧倒的な実績を引っ提げ、満を持してメジャーリーグの名門・ヤンキースを移籍先に選んだ田中将大。

ヤンキースといえば、古くは伊良部秀輝から黒田博樹、イチローまで、日本のファンにとっても見慣れたピンストライプのユニフォーム。これを「待ってました!」ととるファンもいれば、逆に「別のチームで戦う姿が見たかった」と感じたファンも少なくないかもしれない。

「実はメディア関係者の間では、ヤンキースという名前は少々意外でした。メジャー屈指の金満球団として知られますが、こと日本人に関していえば、2007年に井川慶(当時阪神)を5年総額2000万ドルで獲得しながら大失敗に終わった過去があり、今も“最も悲劇的な失敗例”として語り継がれている。イチローや黒田らメジャーで実績のあるベテランならともかく、日本からの“直輸入”には及び腰になっている、という見方が根強かったんです」(スポーツ紙デスク)

田中という投手の評価は、それを覆(くつがえ)すほど高かったということだ。7年総額1億5500万ドル(約161億円)という金額は、もちろん日本人としては過去最高額。現在ヤンキースに在籍する投手のなかでも、左腕エース・サバシアの7年総額1億6100万ドルに次ぐ2番目の数字だ。

年明けに田中が渡米した際、ジラルディ監督ら首脳陣と面談するなど、根回しも順調に進んでいた。何より、田中は代理人に「どうせならパ・リーグと同じDH制のア・リーグで、伝統のあるチームに」と希望を伝えていたというから、やはりヤンキースは当初から大本命だったのだろう。

ただ、ここまでの大型契約となれば、もし成績が振るわなかったときには全米一厳しいといわれるニューヨークのメディアやファンが黙っていない。メジャー評論家の福島良一氏はこう語る。

「彼を“新人”と思うニューヨークのメディア、ファンは皆無でしょう。当然、開幕から大車輪の活躍……いや、ニューヨークのテレビ局が放映するフロリダでのオープン戦でさえ、年俸に見合ったピッチングを披露しないと、一斉にバッシングを始める可能性もあります。球団創設以来、チームを温かく見守ってきた楽天の優しいファンとの温度差に、彼がどこまで耐えられるかでしょうね」

実力が通用する、しないという次元はすでに超越しており、エースに次ぐ活躍を期待……、いや使命づけられている田中。ヤンキースの開幕戦は4月1日。その右腕でニューヨーカーを黙らせる日まで、あと少しだ。

(取材協力/木場隆仁)

■週刊プレイボーイ6号「マー君は『メジャー』と『ヤンキース』にどこまでアジャストできるか?」より