ギアを切り替えることでシーズン200イニング超えを可能にした田中。メジャーでも、この“省エネ投法”は通用するか?

2月15日からフロリダ州のタンパでキャンプインするヤンキースの投手陣。ピンストライプに身を包む田中将大のお披露目まで、もう間もなくとなった。

昨季、楽天で24勝0敗という前人未到の成績を残した田中には、当然、メジャーでも15勝、20勝という数字を期待してしまう。実際にそれだけの力があることは間違いないが、なかには「昨季のイメージはファンも田中本人も捨て去るべきだ」という見方もある。

「昨季の神業のような成績は、長所も短所も熟知している日本の打者が相手だからこそできた配球、駆け引きによるもの。あの配球をメジャーで、それも1年目からできるはずはない。いったん頭をリセットしなければ、いかに田中といえども苦しむと思う」(パ・リーグ某球団スコアラー)

昨季の田中は、ストレートとスライダーを外角に集めてテンポよくカウントを稼ぎ、最後はフォークで打ち取るというのが基本パターン。それに加え、得点圏に走者が進むまでは「打たれてもいい」とばかりに7割程度の力で投げ、勝負どころで初めて全力を出す“省エネ投法”で28試合、212イニングを投げ抜いた。

だが、この方法論はメジャーではなかなか通用しないという。

「メジャーの打者はリーチが長く、外角でも少し甘くなればミートされ長打になる。内角を突いてのけぞらせようと思っても、殴りかかられる(苦笑)。結局、初球から勝負球のつもりで外角にきっちり投げ切れなければ、決め球のフォークを投げる前にやられてしまいかねない」(前出・スコアラー)

田中が尊敬するメジャーの先輩ダルビッシュも、メジャー2年目の昨季でさえ、たった1球のコントロールミスをスタンドインされるシーンが目立った。しかもヤンキースのいるア・リーグ東地区はどこも打者有利の球場で、ライバルチームの打線も強力だ。

では、田中がそうした厳しい環境に対応するためのカギになる球種はなんだろうか?

「日本ではあまり投げなかったカーブがポイントではないか。たとえ1球でも、緩く遅いあのカーブを挟むことでストレートをより速く見せられるし、狙い球を絞らせないという効果もある」(前出・スコアラー)

ちなみに、昨季の田中の配球比率はストレートが35%、スライダーが24%、フォークが18%で、カーブは5%以下。1試合平均ならわずか5球程度だ。この割合を増やしていくのも、ひとつの選択肢かもしれない。

田中が参加した第2回、第3回WBCで投手コーチを務めた野球評論家の与田剛氏はこう語る。

「メジャーへ行けば、変化があるのは当然のこと。それをプラスととらえるか、マイナスととらえるかで結果は変わってくると思います。例えば、昨年の第3回WBCの日本ラウンドで、田中は本来の力を発揮できなかったと報じられました。ただ、あまり着目されてないことですが、彼はその後、大会期間中の短時間でWBCの使用球にも、環境の変化にもキッチリ対応して修正していたんです。今回も、注意すべきポイントを見つけて投球の組み立てを変えていけば、間違いなく活躍できると信じています」

メジャーでは、マウンド上での“雄叫び”も基本的にご法度。クールに投げる田中の姿に最初は違和感を持つかもしれないが、新天地にアジャストしていく“変化の過程”を楽しめるのも、実は昨季までの姿をよく知る日本のファンだけの特権なのだ。

今から開幕を楽しみに待ちたい。

(取材協力/木場隆仁、写真/益田佑一)