「ロシアから見ても今の日本は相当にヤバイ気がしています」と語る北野幸伯氏

2009年、ロシア首相を解任されたプーチンが政界引退後、隠居場所に選んだのは日本だった! 「道講館」に住みつき、柔道ざんまいの日々を送るプーチンが「矢部首相」や「岩原東京都知事」に日本自立のための秘策を伝授する……。

そんな奇想天外な発想で領土・外交問題、食糧政策、エネルギー政策、安全保障など、現代の日本が直面するさまざまな問題への処方箋を、面白く、わかりやすく伝えてくれるのが『日本自立のためのプーチン最強講義』だ。

著者は外交官やFSB(元KGB)のエリートを養成する名門、モスクワ国際関係大学を日本人として初めて卒業し、国際関係アナリストとして活躍する、モスクワ在住の北野幸伯(よしのり)氏だ。

―「道講館」で隠居生活を送るプーチンに日本の首相や政治家が教えを乞う……という設定が個性的です。このアイデアはどうやって思いつかれたのですか?

「この本の前に『プーチン最後の聖戦』(集英社インターナショナル)という本を書いたのですが、その担当編集者から『もしプーチンが日本の首相だったら?』というテーマで一冊書けないか、というオファーをいただいたのがきっかけです。

その本ではKGBのヒラエージェントでしかなかったプーチンが、いかにしてロシアのトップへと上り詰めたか、90年代にアメリカの属国になりかけていたロシアを立て直し、自立させるまでの戦いについて書きました。

そして、それを読まれた編集者が『プーチンってすごい! プーチンなら今のだらしがない日本を立て直せるんじゃないか?』と思われたみたいなんです。その見方は僕も面白いな……と」

―ただ、日本でのプーチンの印象は一般的にあまり良くないというか、どちらかといえばKGB出身のコワーイ独裁者というイメージがあります。

「プーチンが『独裁者』で、怖い人なのは事実です。ロシアでは公にプーチンを批判したり、その私生活に触れたりするのはタブーですね。以前、離婚したプーチンが若い元体操選手と交際していることを報じた新聞社なんて潰されちゃいましたから(笑)。

ただ、その一方で90年代に崩壊寸前だったロシア経済を立て直し、8年連続で7%台という急激な成長を実現したのも事実。一時はアメリカの属国状態だったロシアを自立させたのはすごい。

アベノミクスでもそうですが、景気が良くなれば支持率は上がる。ロシアが豊かになることでプーチンが支持され、『暗黒面』が隠されているという部分はあると思います」

―プーチン先生の講義を受ける「矢部首相」や「岩原都知事」はホンモノよりだいぶマシな人物に描かれている気もしますが……?

「私の願いはこの本を安倍首相にも読んでいただくことです。あんまり悪く書くと読んでもらえないんじゃないかと思って(笑)。

ロシアから見ていても、今の日本は相当にヤバイ気がしています。尖閣諸島の問題なんかも今年か来年、日中で戦争が起きても不思議じゃない状況なのに、政府はそれをわかっているのかな……と。

シリア情勢がいい例ですが、イギリス・アメリカ系の情報ピラミッドと、クレムリン系の情報ピラミッドでは同じ問題でも正反対の見方をすることがあるのですが、『今の日本はヤバイ』という見方はどちらにも共通している。

安倍さんにその気があるかはともかく、『日本が世界を挑発している』という見方がこのまま広がれば国際的な孤立につながりかねないのではと心配しています」

(取材・文/川喜田 研)

●北野幸伯(きたの・よしのり)1970年生まれ。国際関係アナリスト。ロシア・モスクワ在住。ロシアの外交官とFSB(元KGB)エリートを専門に養成するロシア外務省付属「モスクワ国際関係大学(MGIMO)」を卒業。MGIMOでの経験を生かし、独自の手法で世界を分析する

■『日本自立のためのプーチン最強講義』集英社インターナショナル 1680円首相の座から引きずり下ろされたプーチンが、領土・外交問題、食糧政策、エネルギー政策、安全保障など、今、日本が抱える難問に立ち向かうための処方箋を日本の首相や都知事に指南。モスクワ在住のアナリストが、海外から見た日本の現状に警鐘を鳴らす!