神戸市東灘区にある弓弦羽神社。2011年、羽生結弦がここを訪れ、絵馬を奉納している

ソチ五輪の開幕を前に、日本のフィギュアスケートファンの聖地となっていたふたつのスポットがある。

それは神戸市東灘区にある弓弦羽神社と、京都市上京区にある護王神社。実はこのふたつの神社、ソチ五輪フィギュア男子の羽生結弦、高橋大輔両選手の女性ファンがひそかに訪れる場所として、知る人ぞ知る隠れスポットになっているのだ。

「ユズリスト」と呼ばれる熱狂的な羽生ファンが足しげく参拝する、弓弦羽神社の澤田政泰宮司が語る。

「名前が似ているので、ファンの方が当神社の絵馬やお守りを買って羽生選手に贈ったことから、全国の羽生選手ファンに知られるようになったようです」

しかも、この弓弦羽神社にはファン垂涎(すいぜん)のお宝もある。

「東日本大震災があった2011年の夏のこと。大阪での大会を終えた羽生選手が神戸まで足を延ばして神社に寄り、絵馬を奉納されたんです。宮城県仙台市出身の羽生選手の書いた文面は『世界のトップになれますように… そして、東北の光となれるように!』というものでした」(澤田宮司)

ただ、奉納当時、羽生はまだ16歳。才能は誰もが認めていたものの、まだ若手有望選手のひとりにすぎなかった。

「『羽生結弦です』と挨拶をされても、『どこかで名前を聞いたことがあるな』くらいにしか思いませんでした(苦笑)」(澤田宮司)

その澤田宮司が異変を感じたのは昨年春。羽生が12年末の全日本選手権で初優勝し、ソチ五輪代表の有力候補となった頃からだ。

写真/Naoya Sanuki/JMPA

高橋大輔ファンの聖地は……

「羽生選手を応援する絵馬がどんどん増えていったんです。ファンクラブなのか、集団での参拝もありました。その後、羽生選手がソチ五輪代表になると、さらに絵馬が増え、今では例年の倍の量の絵馬がかかるまでになりました」

それらの絵馬を見ると、ファンのフィーバーぶりがよくわかる。

「ソチで金メダルを獲れますように」なんて文面は序の口。「4回転サルコウが無事着氷できますように」と妙に専門的なものや、ひらひらのレースを張りつけたもの、絵の具を立体的に盛ってデコったものなど、気合いの入った絵馬がズラリと並ぶ。

ちなみに、羽生直筆の絵馬は焚(た)かれずに、神社内に大切に保管されているという。今後は一般公開を求めるファンのリクエストが殺到するかもしれない。

一方、高橋ファン御用達となっている護王神社。この神社にファンが押し寄せるようになったのは、高橋のケガ回復を祈願するためだった。エースとして日本男子フィギュアを牽引(けんいん)してきた高橋は昨年11月下旬に右膝の下を負傷し、一時はソチ五輪出場が危ぶまれたのだが……。護王神社の本郷貴弘禰宜が目を丸くする。

「和気清麻呂(わけのきよまろ)公を祀(まつ)っている当神社は、足腰の守り神として全国に知られています。それで高橋選手のケガを知ったファンが大挙して、回復祈願の絵馬を納めることになったようです。

ただ、われわれはそうした動きを知りませんでした。昨年暮れ、お焚き上げのために絵馬を外したところ、半分以上が高橋選手ファンのものだった。それでようやく気づいたんです。これまでにもサッカーや駅伝などスポーツ選手のケガ回復を願う絵馬はありましたが、それも数枚程度。ひとりのスケート選手のために、これだけ大量の絵馬がかけられるのは初めてのことです」

奉納された絵馬を見ると、「浅田真央選手の腰痛がよくなりますように」と願掛けした絵馬もチラホラ。高橋ひとりというより、今や日本フィギュア界全体の祈願スポットになりそうな気配も漂いつつある。

ソチ五輪が終わっても、両神社にはひいきの選手が活躍したことへのお礼参りで、またファンのたくさんの絵馬がかけられることになりそうだ。

(取材/ボールルーム)

写真/Naoya Sanuki/JMPA