ソニーが苦境に立たされている。同社を代表するパソコンブランド「VAIO」の売却に続き、テレビ事業を分社化し、完全子会社にすることも明らかにされた。
今後は成長が見込めるデジタルイメージング(デジカメ、デジタルビデオとその関連商品、技術)、ゲーム、モバイルの3事業に経営資源を集中させ、同社のエレクトロニクス事業の柱とするという。つまり、かつてソニーが世界的企業へと躍進した頃とは一新された商品群を、これからのメシのタネにしていくわけだ。
事業再編という荒療治を経て、ソニーは再び人々をワクワクさせる会社へとV字回復できるのだろうか? デジタルライターのコヤマタカヒロ氏が語る。
「アップルやサムスンにかつてほどの勢いがないなか、スマホやタブレットはやり方次第で世界シェアを拡大できる可能性があると思います。でも、そのほかについては、ソニーが絶対的なシェアや先進性を持っている分野がほとんどない。いずれの事業も、引き続き厳しい戦いを強いられるのではないでしょうか」
IT関連の著述も多いビジネス書作家の戸田覚氏も言う。
「よくよく振り返れば、ソニーはカセットテープ時代のウォークマン以降、真の意味でのイノベーションを何も起こしていない。そんな会社が経営をスリムにしたからといって、急にクリエイティブな体質に変身できるのか? むしろ近い将来、ソニーは現在好調な金融や保険の部門に軸足を移していくこともあり得るとさえ、私は考えています」
もちろん、ソニーがまったく新しい挑戦をしてこなかったわけではない。振り返ってみれば、VAIOでは起死回生をかけ、PCとしてもタブレットとしても使える「2 in 1」スタイルのDuo、Fitといったモデルで勝負に出ていた。ただ、それがユーザーにまったくといっていいほど受け入れられなかったのだ。
ソニー復活のカギは?
「いいとこ取りのつもりだったのでしょうが、PCが欲しい人に対しては性能面で、タブレットが欲しい人に対しては軽さと価格の面でニーズを満たすことができず、両者からそっぽを向かれてしまったのです」(戸田氏)
結果的にはこの2 in 1モデルの失敗がダメ押しとなり、経営陣に「VAIO復活の見込みなし」と最終判断されて事業売却に至った。
そんなVAIO事業が移管される新会社は、現在ソニーのPC部門の開発拠点となっている長野県安曇野市に置かれ、既存スタッフの約4分の1に相当する人員がソニーから移籍する見込みだ。新会社の名称がどうなるのか、どんなユーザーを狙った商品を開発していくのかなど、詳細についてはまだ決まっていない。ただ、PC業界全体が行き詰まっているなか、規模を縮小して仕切り直した新会社に勝算は少ないように思えるが……。
「確かに前途多難でしょう。もっともそれを言うなら、日本のPCメーカーはどこも今、光明が見えない状態なのです。ただ、考え方を変えれば、袋小路に入っているというのはあくまでWindows機での話。近年猛烈な勢いで普及しているスマホやタブレットは、昔だったらPCが担っていたことをやっているわけで、実はあれも広義のPCなんです。Windows機にとらわれすぎず、広い視野を持って、まだ誰も気づいていない新製品を開発すれば、そこには大きなビジネスチャンスがある。一寸先には何があるかわからないのが、デジタルデバイス業界の面白さなんですよ」(戸田氏)
スマホ、タブレットの次のデジタル革命を起こしたのは、日本にある小さなPCメーカーだった、なんてことになったら痛快なのだが。