年13600円は高いのか安いのか。NHKの受信料を巡る問題は、解決の糸口さえ見えない

NHKが受信料徴収に躍起だ。

現在NHKは、受信料不払いの視聴者に対して滞納分を支払うよう求める裁判や、そもそも受契約を結んでいない者を相手に契約を求める裁判を、次々と起こしている。

「受信料不払い」裁判の結果は、本誌が確認できた限りNHKの全勝。だが、「受信契約」裁判のほうは、裁判所によって判断が分かれている。

元来「契約」とは、一方の申し出に対して他方が承諾するという、双方の意思が合致してはじめて成立するもの。しかしNHKは、「契約締結」の通知書を送りつけるだけで、相手の承諾などなくても自動的に契約は成立する、と考えている。その根拠は、放送法第64条の「協会(※編集部注:NHKのこと)とその放送の受信についての契約をしなければならない」とする規定だ。

昨年10月の東京高裁判決は、そんなNHK側の主張を全面的に認め、視聴者側が契約締結を拒否しても、通知から「長くても2週間」で契約が成立するとした。

一方、昨年12月の東京高裁判決は、視聴者側に契約を結ぶ義務があることは否定せず、受信料を支払うよう命じたものの、「双方の意思表示がなければ受信契約は成立しない」との判断を示している(NHKは上告)。

受信料徴収率を高める動きはこれだけではない。今から2年半ほど前の2011年7月、受信料制度のあり方を検討してきたNHK会長の諮問機関「NHK受信料制度等専門調査会」でまとめられた受信料に関する提言に、以下のような一文がある。

<すでに伝統的なテレビ受信機の設置に対応して受信料を支払っている者には追加負担は発生せず、もっぱら通信端末によってNHKの『放送』を受信しうる者のみが、受信料の支払い対象者に加わる>

NHKはどういう義務を背負っている?

これは近い将来、テレビ放送がインターネットでも同時配信される時代が到来することを前提にしたもの。要するに、テレビを持たずにパソコンなどの通信端末でテレビを見る人からも受信料を徴収するのが望ましいとしたのだ。

この理屈が世界的にまかり通るなら、将来的には海外の視聴者からもNHK受信料が徴収できることになる。ただし、現行の放送法はインターネットでの同時配信をまったく想定しておらず、実行に移すには放送法の改正が必要とされる。

メディア総合研究所事務局長で『放送レポート』編集長の岩崎貞明氏は、こう語る。

「有料放送の契約では、放送のサービスを受けることに対価を支払っているわけです。ところがNHK受信料の場合、テレビの所有者が一方的に『受信料を払う』という義務を科される契約になっている。ならばNHKは、テレビの所有者に対してどういう義務を負っているのか。その疑問に対する明確な答えがない」

ここに、NHK受信料未払い問題の根本的な原因があるのかもしれない。

(取材/明石昇二郎とルポールタージュ研究所、取材協力/丸山昇)

■週刊プレイボーイ10号「『受信料不払い裁判』を連発する前に『スクランブル放送』を導入したら?とNHKに直接聞いてみた」より