2月16日、ビッグな芸能ニュースが飛び込んできた。

世界3大映画祭のひとつ、第64回「ベルリン国際映画祭」で女優の黒木華(はる・23歳)が最優秀女優賞(銀熊賞)に輝いたのだ。

受賞作『小さいおうち』(山田洋次監督)は東京郊外で起こった男女の恋愛事件の真実を、昭和と平成のふたつの時代を通して描いたもので、黒木が演じたのは割烹着姿のお手伝いさん、布宮タキというなんとも地味な役どころ。

とはいえ、その高い演技力で審査員のハートをわしづかみにしたのだ。しかも、日本人の銀熊賞受賞は過去に3人だけ。左幸子(1946年)、田中絹代(75年)、寺島しのぶ(2010年)という大女優ばかりときてる。これはただ者じゃない。

国内での活躍も目覚ましい。10年にデビューしてからまだ4年しかたっていないというのに、映画、舞台、テレビドラマに引っ張りだこ。野田秀樹、十八代目中村勘三郎、堺雅人ら芸達者と共演を果たしたばかりか、昨年には映画『舟を編む』『シャニダールの花』での演技が評価され、キネマ旬報ベストテンや日本アカデミー賞など、7つの新人賞を総なめにしている。

いったい、デビュー前の黒木華はどんな女のコだったのか? 彼女がまだ女優の卵だった時分を知る高校時代の恩師に聞いてみた。

「将来は女優になりたいと口にするだけあって、(演劇部に)入部して初めての基礎練習を見た瞬間から『あっ、これはモノが違うな』と、うならされたものです」

そう証言するのは、追手門(おうてもん)学院高校(大阪府茨木市)演劇部顧問の阪本龍夫教諭だ。ちなみに、この追手門学院高校は大阪府大会で優勝14回、全国大会を制覇したこともある高校演劇の名門だ。

「演技力がずば抜けていました。部員たちには常々、ひとつのシーンを演じるのに最低3パターンは考えろと指導していたんですが、黒木は3つどころか、きりがないくらいの多彩なパターンが頭に入っていました。あれは24時間、演技のことだけを考えているからやれること。学校でも演劇部が最優先で、稽古に遅れる、休むなんてことはありませんでしたね」

同校演劇部では毎年4本の作品を制作し、8回の公演を打つが、黒木は高校1年の7月から卒業まで、一貫して主役を務めてきたのだとか。まさに演劇ざんまいの日々を送っていたようだ。

女優としての目線の平らかさに感心したというのは、黒木が卒業した京都造形芸術大学芸術学部で教授を務める、元文部省官僚で映画評論家の寺脇研氏だ。

「在学時の彼女とは直接の面識はなかったのですが、今年1月、テレビ制作会社の見習いADや俳優志望のアルバイトなど、映画科を卒業して間もない社会人2年生30人ほどに声をかけて飲んだときのことです。

そこに、同級生ですでに売れっ子の彼女が顔を見せたんです。そのときの態度が偉かった。『私は有名女優よ』なんて態度はおくびも見せない。あくまでも同じ目線で、かつての仲間と接している。多忙なはずなのに朝までみんなと飲んでいた。大したものだなと感じ入りました」

そんな黒木の今後に寺脇氏がエールを送る。

「『小さいおうち』の彼女は地味な女性に映りますが、初主演作の『シャニダールの花』の彼女は美しかった。つまり、彼女は地味なお手伝いさんになったり、絶世の美女になったりと、作品の色によって自分を染め分けられる本物の女優。これから多くの監督が彼女をどんな役に起用して、どんな映画を撮ろうかと、次々と企画を持ちかけてくるはず。楽しみです」

久々に登場した若き本格女優の今後に期待しよう。

(取材/ボールルーム)