領土問題や歴史問題に関して、韓国や中国は米政界でも活発にロビイングを行ない、国際世論へ働きかけています。動きの鈍い日本との差はどこにあるのでしょうか?

2月6日、米バージニア州の下院議会で、州内で使用される公立高校の教科書における「日本海」の記載に、韓国が主張する「東海」という呼称を併記するよう求める法案が可決されました。ニューヨーク州などでも、同様の法案の審議が行なわれる予定だといいます。カリフォルニア州グレンデール市の慰安婦像設置もしかり、米政界における韓国の活発な“ロビイング”には目を見張るものがあります。

このニュースを見て思い出したのが、北京大学在学中に学内で開かれた「国際文化祭」というイベントでのこと。当初は各国の留学生にひとつずつブースが与えられ、自国の文化をアピールするという約束でした。ぼくたち日本人学生は大使館から浴衣を借りるなど地道に活動していたのですが、いざ当日になって韓国には驚かされた。ひとつのはずのブースが3つ用意され、キムチやチャーハン、スープが無料で振る舞われている。もちろん大盛況です。

状況をよく見ると、韓国経済界・大使館がスポンサーについて全面支援していることがわかりました。注目されるイベントで効果的なアピールができると判断し、戦略的に利用したのでしょう。実はぼくたちも、大使館や日本企業に出資を含め相談していたのですが、色よい返事をもらうことはできませんでした。

両国の差はどこにあるのか? ナショナリズムや愛国心の強さのみならず、やはり“成果主義”というお国柄に尽きると思います。結果が出るまで徹底的にやる。そのためならあらゆる方面へのロビイングはもちろん、日本人が考える“モラルの範囲”を多少逸脱しても相手を出し抜こうとする構想力&突破力を持ち合わせていると痛感しました。

中国にも同じような面がある。昨年、ハーバード大学で「チャイナ・ナイト」というイベントに参加しました。著名な米国人学者を招いて中国の台頭をアピールする狙いがあり、会場には本国副大臣クラスの高級官僚もいました。特筆すべきは、このイベントを中国人学生たちが自発的に企画し、各方面に交渉を重ねて実現させたことです。

韓国や中国と比較すると、日本は戦略的に何かを発案・発信したり、成果を得ようとするときのフットワークが著しく鈍い。これは日本特有の組織やしがらみ、そして「謙虚に空気を読む」という慣習が原因だとぼくは思います。

“ゴリ押し”が苦手な一方、ソフトな“根回し”は得意な日本人

わかりやすいのがODA(政府開発援助)です。日本は対象国に資金供与する際、「日本のことを宣伝してください」とお願いしますが、多くの場合は目に見える形で実現しない。相手国に約束を守らせるための、水面下での必死の働きかけが足りないのでしょう。「いいことをしたとき、自分からことさらに強調しない」という美徳は日本国内、そして個人レベルでは素晴らしいものなのでしょうが、こと外交においては国益を損なう原因にすらなっているのです。

もちろん、日本政府もロビイングの重要性は心得ており、取り組んでいます。例えば昨年8月、元大統領候補で共和党上院議員のジョン・マケイン氏が来日した際、「尖閣諸島は日本の領土だというのが、米議会と米政府の立場だ」とスピーチしました。その後、“あれは同氏が口を滑らせただけで、米政府の公式見解ではない”というのが通説になりましたが、野党とはいえ「領土問題については中立」を基本とする米国の大物議員があれだけの発言をしたわけですから、その裏には日本政府の働きかけがあったとみるのが自然でしょう。

日本人はどの国の人よりも事前準備というものを大切にする。“ゴリ押し”が苦手な一方、ソフトな“根回し”は得意。東京五輪招致のように、この気質を戦略的に使えばいいのです。ロビイングなくして複雑な国際社会を生き抜いていけるというなら、その理由を逆に教えて!!

■加藤嘉一(かとう・よしかず)日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学アジアセンターフェロー。最新刊『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)のほか、『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)など著書多数。中国の今後を考えるプロジェクト「加藤嘉一中国研究会」も始動! http://katoyoshikazu.com/china-study-group/