先日、テレビのロケでブラジルに行ってきた。

すでにW杯開幕まで100日を切っているけど、サンパウロの空港でも街中でも、大会の旗やマスコットなどは見かけず、「もうすぐW杯だ」という雰囲気はほとんど感じられなかったね。どちらかといえば、カーニバルに向けての準備に力が入っていた。テレビや新聞が取り上げるサッカーの話題も、サンパウロ州やリオデジャネイロ州など各州リーグの結果ばかりで、たまにブラジル代表のニュースがあるくらい。

そんな状況は、日本人の感覚からすれば不思議に思うだろう。でも、ブラジルはサッカーどころだから、W杯イヤーだからといって、メディアがファンを煽る必要がないんだ。開幕が近づけば、みんな勝手に盛り上がる。

日本でよく報じられるスタジアム建設の遅れについても、特に問題視されていない。昨年のコンフェデ杯時に起きたデモや暴動についても、W杯本番ではより厳重な警備体制が敷かれるからと、あまり心配されていなかった。

今回、僕はテレビのロケのほかに、現地テレビ局のサッカー討論番組にもゲスト出演してきた。同じコリンチャンスOBで、友人でもあるリベリーノ(元ブラジル代表。1970年メキシコW杯優勝時のメンバー)や、元ブラジル代表のデニウソン(2002年日韓W杯優勝時のメンバー)もいて、なかなか楽しい時間だった。

ブラジルのサッカー番組ではよくあることだけど、昼の生放送で1時間の予定だったのに、討論が盛り上がり、急遽、放送時間が20分も延長されたんだ。特に、ある審判の誤審についての議論が盛り上がり、「あの審判はもう終わった」という手厳しい意見もバンバン飛び出していた。

ドゥンガの日本代表へのアドバイスは?

たとえ時間が過ぎても、議論すべきことは徹底的に議論する。それがブラジルのメディアの姿勢で、日本のメディアとは根本的に考え方が違うんだ。夜遅い時間帯のサッカー番組だと、もっと時間が延長されることもある。同行した日本のテレビ局スタッフも驚いていたね。

気になる現地での日本代表評については、「昔に比べて徐々に強くなっているけど、まだまだ経験不足」といったもの。それほど高い評価はされていない。どうも、昨年のコンフェデ杯のイタリア戦(3-4で敗戦)のイメージが強いようだ。せっかく2-0とリードしたのに、同じテンポで攻め続け、最後は息切れして逆転された。悪い意味で純粋すぎるというのだ。

ただ、今回話を聞いたドゥンガ(元ブラジル代表。94年米国W杯優勝時の主将。元ブラジル代表監督)は「キャンプ地と試合開催地の気候の違い、移動への準備を徹底し、コンディションのピークを初戦に合わせられれば、日本が決勝トーナメントに進出する可能性は十分ある」と言っていた。

そして、「日本のキーマンは誰だと思う?」と聞いたら、「いない。日本にはメッシやネイマール(のようにひとりで試合を決められる選手)はいないんだから。全員でやるしかない。02年日韓W杯のときの韓国のように、相手に走り負けないチームをつくれたときにチャンスがある」と答えた。

まったく同感だね。選手の技術がこれから劇的に伸びるとは思えない。また、今回のブラジルW杯は非常に暑い地域で試合が行なわれる。だから、コンディション対策を徹底する。日本はそこに活路を見いだすべきだろう。

(構成/渡辺達也)