2月にソチで行なわれた日露首脳会談では、プーチン大統領が昨年、秋田県から贈られた秋田犬の「ユメ」を引き連れて安倍首相をお出迎え。それに対し、安倍首相がロシア語で「いい犬ですね」と応えるなど、蜜月ムードだった日露関係。

だが、クリミア情勢を機に両者の関係が冷え込む可能性は高いと、外務省のキャリア官僚S氏が指摘する。

「クリミア情勢に関して、日本のマスコミは、どれだけ重大な事態なのか理解していません。ひとつの国家が分裂して、アメリカとロシアを代表とする東西陣営が睨(にら)み合う構図は、まさにドイツや朝鮮半島、ベトナムが分裂して戦争状態になったときと同じなのです。

数十年に一度の一大事なのに、ロシアのプーチン大統領がクリミアの編入を表明した翌日、日本のメディアはベビーシッターやマレーシア航空機のニュースをトップで扱っていた。危機感がないにもほどがあります。この紛争は長期化する可能性が高い」

なぜ、そこまで日本も危機感を抱くべきなのか。なぜなら、すでにアメリカはロシアへの経済制裁にオバマ大統領がGOサインを出している。EU諸国もロシアへの追加制裁を協議中。そして日本も、こうした各国よりは軽いものの、さまざまな協議を停止する制裁を決定した。つまり、日本は完全にロシアを敵に回したと表明しているのだ。

集団的自衛権が認められれば、自衛隊もロシアと戦う

一方でロシアも、アメリカに対し報復の制裁を発動しており、もはや互いに一歩も譲らない状態。問題の早期解決は困難な状況となっている。

この緊張状態が長期化すると、クリミア周辺における軍事衝突も可能性としてゼロではない。するとそこに、安倍政権にとって大きな地雷があると、S氏が指摘する。

「安倍首相は集団的自衛権の行使ができるように憲法解釈を変更しようとしています。もし実現すれば、黒海に展開するアメリカ海軍を支援する形で自衛隊の補給艦と護衛艦も黒海に配備されることになる。集団的自衛権の行使とは、アメリカの戦艦が攻撃されれば自衛隊もロシア軍に攻撃をするということです。そうなれば自衛隊はロシア軍から攻撃を受けるのです。自衛官の命が黒海で散るシナリオは、もうすぐそこにある現実なのです。

この状況下で安倍首相が集団的自衛権の問題を強硬に推進すれば、国民からの支持率は今までのようにはいかないでしょう」(前出・S氏)

現在、安倍首相が強力に推し進めようとしている集団的自衛権だが、“もしも”のためなら、国民もリアリティが薄い。だが、クリミア周辺でロシアと戦うために行使するという現実味を一気に帯びたら、多くの国民は安倍政権にNOを突きつけるだろう。

クリミア情勢の悪化は、日本にとっても対岸の火事ではない。

(取材/菅沼 慶)

■週刊プレイボーイ14号「長期政権どころか来年の自民党総裁選で失脚する可能性も大アリ!! 安倍政権を待ち受ける5つの地雷」より