老朽化が進む1号羽田線の東品川桟橋・鮫洲埋立部付近(提供・首都高速道路)

■止まらない首都高の老朽化

総延長距離301.3キロ、一日約100万台の車両が通行する東京都心部の交通の要、首都高速道路(首都高)が今、新たな局面を迎えている——。

首都高は昨年末、約6300億円の大規模な更新・修繕に乗り出すことを発表した。実は現在、各路線の老朽化や損傷が深刻な状況になりつつあるのだ。1962年の開通から50年以上が経過し老朽化の進む路線は全体の4%(約13キロ)、10年後には約30%(約110キロ)に達する見込みだ。

この状況を踏まえて首都高は、重大な損傷がある3路線の5区間、約8キロで「更新(橋の架け替えや床版の取り替え)」を行ない、3号渋谷線の南青山付近や4号新宿線の幡ヶ谷付近など約55キロで「大規模修繕」を行なうことを決めた。

早ければ平成26年度から約10年をメドにして更新や修繕に取りかかる計画だというが、なぜこのタイミングで大規模な改修案を打ち出すことになったのか?

首都高速道路・大規模更新事業化作業チームの角田征氏が背景を説明する。

「最初期の首都高は、東京五輪に間に合わせる形で建設が進められましたが、当時はまだ老朽化や経年変化が建造物へ与える影響や供用期間についての基準は定められていませんでした。平成14年の建築基準法改正でようやく盛り込まれたものの、昭和30年代当時に造られた高速道路や新幹線を始めとするインフラが今、いっせいに高齢化を迎え、更新や修繕の必要が生じているというのが実状です」

「更新」路線の現状と展望

■「更新」路線の現状と展望

首都高ではこれまでも、構造物を安全な状態に保つために週2〜3回、パトロールカーで定期的な巡回点検を行なうなどして、損傷箇所の発見や補修に努めてきた。平成24年度には緊急対応が必要な1500カ所、計画的な補修が必要な約41500件の補修を実施している。素朴な疑問ではあるが、損傷をこのまま放置した場合どうなるのか?

「……そうですね、どうなるか読めないというのが正直なところです。しかし、だからこそすみやかに着手する必要があると考えます。日々のメンテナンスだけでは限界がありますし、何かが起こってからでは遅いですから」(前出・角田氏)

角田氏の案内で、「更新」の対象となっている1号羽田線の東品川桟橋・鮫洲埋立部を訪れた。供用から50年が経過して特に損傷が進んでいるエリアだ。東品川桟橋は橋桁と海水面との空間が極端に狭く、潮の満ち引きによって激しい腐食を受ける。

「満潮時には橋桁スレスレのところまで水位が上がって、1日のうち2〜3時間しか点検や補修ができない構造になっているんです」(前出・角田氏)

海面の激しい腐食環境によって、コンクリートの剥離や鉄筋の露出などの損傷が進んでいる(提供・首都高速道路)

海水に長時間さらされる部分はコンクリートが剥がれて、鉄筋が露出するなど、明らかに損傷が進み、橋脚のコンクリートにはヒビ割れも見られた。こうした損傷の状況を踏まえ、このエリアは海面から15〜20メートルの高さの高架橋に架け替えられる計画だという。では、工事に伴って生じる交通渋滞などの影響については、どのような対応がなされるのだろうか?

「渋滞を極力軽減するために、本線機能に相当する仮設の迂回路を設置することを検討しています。また、他の路線についても周辺にスペースがある場合は迂回路を設置するほか、それが難しい場合も車線数を減らして対応するなど、全面通行止めにはしないための策を講じていく予定です」(前出・角田氏)

東品川桟橋の「更新」工事後のイメージ。高架橋へと架け替えられる(提供・首都高速道路)

大規模更新はオリンピックに間に合うか?

■大規模更新はオリンピックに間に合うか?

ここで気になるのは、大規模更新・修繕にかかる予算だ。首都高は総事業費約6300億円を見積もる。「更新」に約3800億円、「修繕」に約2500億円という内訳になっている。果たして、これほどの財源をどこから捻出するのか?

前出・角田氏と同じプロジェクトチームに所属する、峯村智也氏が説明する。

「もともと首都高の有料期間は2050年までで、それ以降は無料開放されることになっていました。今回、道路整備特別措置法の改正案が通れば、料金徴収期間を15年ほど延長させていただくことになります。それを担保に資金の調達をしていく所存です」

首都高は今回の大規模更新を、あくまで安全なインフラを次世代へ引き継いでいくためのプロジェクトとして位置づけ、事業費についても理解を求めていくつもりだ。

こうした大規模更新へ向けての動きが本格化するなか、舛添要一東京都知事は2月の就任会見で次のように語った。

「首都高の大規模更新に8年、10年とかかるというのであれば、努力して(東京オリンピックが開催される)2020年を目標に進めたい」

更新・修繕工事が始まっていない現段階では「間に合うかどうか、まだなんとも言えない」(前出・峯村氏)ということだが、生まれ変わったインフラで一大イベントを迎えられたらという期待は大きい。首都高速の新たな展開の行方を見守りたい。

取材に応じてくれた、首都高・大規模更新事業化作業チームの峯村氏(左)と角田氏(右)

首都高大規模更新計画の概略図

首都高大規模更新計画の概略図(提供・首都高速道路)。青い部分が「更新」、赤が「修繕」の行なわれる箇所

(取材/週プレNEWS編集部  写真・画像提供/首都高速道路)