アベノミクス、秘密保護法など次々と政策を繰り出し、発足から1年3ヶ月経った今も、高支持率をキープする安倍政権。だが、首相の本丸的テーマは憲法9条の改正だ。

しかし、一気にそこを攻め落とすには無理がある。というわけで、教科書検定基準の改正、武器輸出三原則の見直しといった外堀を埋める作業にも熱心だという。文部科学省の若手官僚が言う。

「昨年の12月以来、すでに3回も教科書会社を集め、新しい検定基準の説明をしています。キーワードは首相が国会で答弁した『マインドコントロールからの脱却』。検定作業を担当する部署で働く同僚に聞いた話ですが、これからは自虐的な歴史観とはオサラバし、尖閣・竹島は日本固有の領土、南京事件や慰安婦問題も政府の主張をはっきりと記述するよう教科書会社に圧力をかけろ。そうでないと、出世できないぞと、上司からハッパをかけられているそうです。2016年4月からは社会科教科書など、安倍カラーの強いものになることは確実です」

いったい、安倍首相は日本をどこに連れていこうとしているのか? 小林節慶應義塾大学教授はこう指摘する。

「9条によって、日本がこれまでアメリカの戦争に付き合わされずに済んだのは紛れもない事実です。アメリカの戦争に加担することで、これまでイギリス、韓国といった国々がどれだけの兵士を死なせたことか。集団的自衛権を行使するということは、そうした事実と結果を日本も受け入れるということなのです」

渋谷秀樹立教大学教授もうなずく。

「安倍首相は教育基本法の改正や教科書の検定基準の見直しで愛国心を養い、個人より国のほうが大切という考え方を国民に押しつけようとしている。その上で秘密保護法や武器輸出三原則見直し、さらには解釈改憲までも駆使して、最終的には日本を戦争のできる国に変えようとしているのです。その先に待ち構えるものは徴兵制であり、戦争ではないのか? 本当に心配しています」

戦後レジームの清算は、諸外国の反発を生む?

また、安倍首相は日本を外交的孤立へと導いているという声もある。外交評論家の天木直人氏が言う。

「安倍首相の目的は戦後レジーム(戦後にできあがった政府の体制・制度)の清算。東京裁判、サンフランシスコ講和体制なども対米従属のシンボルと見なし、内心では反発しているように見えます。しかし戦後レジームは第一義的には天皇制を存続させるために、日本が受け入れた秩序だったのです。それを否定すれば、アメリカなどの戦勝国から『戦争に負けておいて、オレたちがつくった戦後の国際秩序に挑戦するつもりなのか?』と、警戒感を持たれかねません。

事実、アメリカは年末の首相の靖国参拝に『失望した』という異例なコメントを出すなど、安倍政権の右傾化した歴史認識に警告を発しています。それでも首相が戦後レジームの清算にひた走れば、アメリカから反米の烙印を押され、世界から孤立しかねません」

先の衆院選、安倍首相の顔写真がアップになっている自民党の選挙ポスターには「日本を取り戻す」とのキャッチコピーがあった。その意味を、自虐史観を強要する中韓への反発と捉えた人たちからは、多くの支持を集めた。とはいえ、彼らの大部分も“第二次世界大戦前の日本”を取り戻すことまでは求めていないだろう。

(取材/姜誠、取材協力/川喜田 研)