残念なことに、3月23日の浦和vs清水戦でJリーグ史上初めてとなる無観客試合が行なわれた。

それに先立つ3月8日の浦和vs鳥栖戦で、一部の浦和サポーターが「JAPANESE ONLY」という横断幕を掲げたことに対して、Jリーグから下された処分だ。浦和自体も、横断幕を掲げた当事者の無期限入場禁止、浦和サポーターの横断幕、旗類の掲出をすべて禁止とした。

人種差別行為はあってはいけないし、絶対に許してはいけない。それは大前提。ただし、差別のない国なんて存在しない。僕はあらゆる人種が混在するブラジルで生まれ育ったからよくわかるけど、自分と外見や文化が異なるものに警戒感を示してしまうのは人間の本能的な反応。だから、差別はなくならない。悲しいけど、それは事実だ。

大事なのは、問題が起きたときにどう対処するか。今回、Jリーグの村井満チェアマンは、騒動の発生から5日という過去に例を見ないスピードで処分を下した。今年1月末にチェアマンに就任した彼の「人種差別行為は絶対に許さない」という強い意志の表れだろう。その決断は尊重したい。

ただ、個人的には、今回の騒動の因果関係を、もっとしっかり調査してから処分を下してもよかったのかなと思う。なぜなら、横断幕がどのような意図で、誰に向けて出されたものなのかが、いまだによくわからないからだ。掲げた当事者たちは、「ゴール裏は聖地なので、ほかの人に入ってほしくなかった」「外国人の観光客が入ると、統制が取れなくなっていやだった」という主張をしたそうだけど、実際のゴール裏の状況はどうだったのか。彼らの主張をそのまま受け止めていいのか。何かほかの意図は考えられないのか。選手や監督に向けられたものだったという見方も、依然としてある。

スタジアムから自由な空気が失われてしまわないか?

また、あえて言うなら、無観客試合という処分も少し重すぎるように感じる。騒動と無関係の清水サポーターまで入場できなくする必要はあっただろうか。罰金と浦和側のゴール裏の閉鎖という選択はなかったか。村井チェアマンの説明によれば、浦和サポーターは過去にも類似した問題を起こしているので、「累犯」と見なし、無観客試合という厳罰にしたという。

でも、それならば、今までにJリーグから罰金という“警告”を受けていたにもかかわらず、有効な対策を打ち出してこなかった浦和側の責任者、つまり淵田敬三社長を処分すれば済む話ではないのか。清水サポーターはもちろん、多くのスポンサー、さらに、大多数の浦和サポーターにも罪はない。無観客試合にしたことで、騒動に関係のない多くの人たちを巻き込み、大きなダメージを与えてしまったように感じる。

浦和が横断幕や旗を禁止したことも理解できない。一方的に非難される状況で、慎重になる気持ちはわかる。でも、それで何が解決するのか。一時的な防止策にはなるだろうけど、いつまで続けるのか。これまた、罪のない大半の浦和サポーターが気の毒だ。実際、僕の知人の浦和サポーターは「スタジアムで旗を振ることを楽しみにしていた小学生の息子に、なんて説明すればいいのか」と悩んでいたよ。

今回の処分を受け、浦和サポーターに限らず、各チームのサポーターが必要以上に萎縮して、スタジアムから自由な空気が失われてしまわないか、今はそれが心配だね。

(構成/渡辺達也)