ド派手な入団会見から約2ヵ月半、イタリアのACミランで順調なスタートを切ったはずの本田圭佑が、現在、現地メディアから厳しい声を浴びせられている。

「本田はミランが獲得するようなレベルの選手ではなかった。ピルロ、セードルフ……。これまでACミランに所属した選手とは才能もメンタリティも次元が違う。テクニックはいいものを持っているが、テンポが悪すぎる。チームのことを考えたら、もっと守備のできる選手を獲得すべきだった」(テレビ局『スカイスポーツ』の解説者、マッシモ・モウラ氏)

「なかなか活躍できない本田をセードルフ監督は『外国人選手がイタリアのサッカーに慣れるのには時間がかかる』と擁護しているが、もう2ヵ月以上が過ぎようとしている。ジダンも慣れるのに時間がかかったというが、ジダンがセリエA(ユヴェントス)に来たのは24歳。でも、本田は27歳だ。今マックスの力を出さないで、いつ出すつもりだ?」(サッカー専門サイト『カルチョ・メルカート』)

さらにファンサイトには「ケイスケ・ホンダ?」というタイトルのスレッドが立ち、「無用」「スピードも闘志もない」「ミラネッロ(ミランの練習場)で寿司でも握ってろ」と、容赦のないコメントが並ぶ。

移籍当初は大歓迎されていた本田が、なぜこんな評価を受けているのか。イタリア在住のジャーナリスト、宮崎隆司氏はこう語る。

「イタリアメディアの手のひら返しは日本の比ではありません。入団時にあれだけ持ち上げられたからこそ、その反動で今は厳しい評価になっているんです。そもそもイタリアのスポーツ報道は“娯楽”としての側面が非常に強く、表現も大げさになります。また、本田が10番を背負っているため、かつての10番、ボバンやルイ・コスタ、セードルフと比較されてしまうことも大きい。当時と現在では、チームの置かれた状況自体が違うのですが……」

本田のファッションもバッシングの対象?

一方、「本田はプレー以外のことでも損をしているね」と言うのは、最大手のスポーツ紙『ガゼッタ・デロ・スポルト』紙のパオロ・ファルコリン記者だ。

「インタビューに応じない一方、この天気の悪い冬のミラノでいつもサングラスをし、身につけるものは上から下までブランドもので、ジョージ・クルーニーみたいな髪型。かつてミランにはベッカムもいたし、サポーターはモデルのような選手にも慣れているけど、試合で目を引くような活躍ができないのにおしゃれに気を使っているように見えては、サポーターの心をつかめない。メディアの格好の餌食(えじき)になるし、ロッカールームでの立場も悪くなります」

とはいえ、けっしてプレーが酷評されているわけではない。『ガゼッタ・デロ・スポルト』紙の採点欄を見ると、ここまでの10試合、本田の採点は10点満点(平均5.5点)で、6点が3試合、5.5点が1試合、5点が3試合。決して高くはないが、ポジションを争うカカも、何度も5点をつけられている。

「試合ごとのイタリアの新聞の選手評価はあくまでも一記者の主観にすぎません。特定の記者が特定の選手に高い点数を出すこともよく話題になり、『あいつらは仲がいいから』なんていわれています。そんなものに一喜一憂するのはナンセンスです。

チームの不振と本田の加入、そのふたつが関係あるように見られがちですが、ミランの問題は別のところにあります。長年ミランを仕切ってきたガッリアーニCEOと、オーナーのシルヴィオ・ベルルスコーニ(元首相で3つの民放テレビ局を所有するイタリアのメディア王)の娘であるバルバラというふたりの派閥が対立し、クラブの内部はむちゃくちゃです。そんな現状の、ある意味でスケープゴートにされたのが本田なんです」(宮崎氏)

ガットゥーゾは本田を賞賛

ここにきてメディアやサポーターの批判の矛先もミラン首脳陣やセードルフ監督に向かいつつある。先日、宮崎氏はミランの中盤を長年支え、サポーターからも愛されたガットゥーゾ(現指導者)にこう言われたという。

「例えば、(3月8日の)ウディネーゼ戦でも、戦う姿勢を最も見せていたのは本田だった。みんなが本田の半分でも力を発揮すれば、ミランは50%はよくなる。チームリーダーがいない今のミランで10番を背負うのは大したもの。応援したいよ」

イタリアで本田バッシングがあるのは事実。だが、それは現地では当たり前のことであり、それを日本のメディアが必要以上に膨らませて伝えているだけなのだ。

活躍をすれば、一転して賞賛の嵐。本田は今、そういう“カルチョの国”で戦っているのだ。