マダコの値段が急騰している。

日本で流通するマダコの約8割は、西アフリカのモロッコもしくはモーリタニア産。ところが、昨年の夏あたりから現地での漁獲量ががくんと落ち込み、加工原料として日本の商社が買いつける冷凍マダコは、ここ半年で3割以上も値上がりしているという。

同様に、国内でボイル加工された西アフリカ産マダコの小売価格も跳ね上がり、デパ地下などで売られる大型サイズともなると、高級品として知られる兵庫・明石産に匹敵する値がつけられている。

では、なぜ西アフリカで急にマダコが捕れなくなったのだろう。気候や潮の流れの変動か、あるいは乱獲による資源の枯渇か。現地から日本へマダコを輸入している大手水産品商社の担当者が言う。

「理由はわれわれにもわからないんですよ。自然の生き物が相手なので、これが原因だとはっきり特定できないんです。そして現在の不漁が西アフリカでいつまで続くかについても、予測できないというのが正直なところです」

それは心配。このまま不漁が続けば、ますますマダコの値段が上がってしまう……。

え? マダコなんてめったに食べないんだから、どれだけ値上がりしても、あんまり関係ない?

それは間違いだ。

アレを忘れていないか。小腹がすいたときに手頃な値段で胃袋を満たしてくれる、小さくて丸くてうまいアレを。

たこ焼きである。

不漁は想定内? 変動する漁獲高

原材料の中で最も値の張るマダコの仕入れ価格が高騰してしまうと、たこ焼き自体の値上げを招きかねない。あるいは価格据え置きのまま、たこ焼きひとつひとつに入るマダコの粒が小さくなることだって考えられる。庶民のスナックであるたこ焼きは今、大打撃を受けているのではないのか?

そこで、たこ焼きの本場・大阪の有名店に真相を確かめてみた。話を聞いたのは、昭和8(1933)年に創業し、日本で初めてたこ焼きを売り出した老舗「会津屋」(本店・大阪市西成区)である。

「小売価格の値上げ? ええ、4月から予定してます。でも、それは、消費増税に伴うものです。ウチの場合、マダコの仕入れ値は去年あたりからじわじわ上がってますが、このところ極端に上がったということはありません。ただ、アフリカでの不漁がありますから、仕入れ値が今後どうなるかは、取引先業者との相談になってくると思います。卸価格が大幅に上がるかもしれんし、逆にもしかしたら、業者さんのほうである程度値上がり分を吸収してくれるかもしれませんし。ですから、4月以降にまた小売価格を上げるか、それとも据え置くかは、今の時点ではなんとも言えんところです。ただ、ウチは去年の7月にも、原料価格や燃油費が上がった影響で値上げしてるんでね……」

やはり、たこ焼き店自身も仕入れ値の推移を、固唾(かたず)をのんで見守っているようだ。

このままマダコは未曽有の急騰を続けて数年後には高級食材となり、たこ焼きひと舟が1000円以上で売られるような日が来てしまうのか? そうなると、もうあのナニワの粉もんの代表は、庶民と縁のない食べ物になってしまう……。

が、どうやらそこまで深刻に考える必要はないらしい。

「水産品の漁獲高は、年や時季によって変動するのが当たり前なんです。例えば、昨年全体を通して見ると、西アフリカでのマダコはむしろ豊漁。ここ最近では2009年が豊漁、11年、12年が不漁の年でした。つまり、現在の不漁も、長いスパンでわれわれが想定している範囲内だととらえています」(前出・商社担当者)

たこ焼きのためにも、そうであることを祈りたい!