サラリーマンの処世術で、もっとも重要なのが「コミュニケーション」だ。社内でも得意先でも、会話が盛り上がれば後々の仕事にプラスになることが多くなる。

とはいえ、歳の離れた上司と共通の話題を見つけるのもなかなか難しいもの。そんなときの鉄板ネタが「野球」だ。

昨晩の野球の結果で機嫌が変わる、飲み屋で昔話を始めたら朝まで止まらない――そんな上司は身近にいないだろうか?

そこで、そんな野球好きの上司と上手にコミュニケーションをとれる“ツボ”を、コアな野球専門誌『野球太郎』(廣済堂ベストムック)編集部に教えてもらった!

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営業マンが話題にしてはいけない三大タブー。それは「政治」「宗教」、そして「野球」である。

この警句には多分にジョークの要素も含まれているとはいえ、一方で、それくらい人によって哲学、嗜好(しこう)が分かれるということを頭に入れておこう。

その上で、まず調査しておきたいのが、「上司が『巨人ファン』なのか、『アンチ巨人』なのか」。年配の野球ファンにとっては、野球観のみならず、「与党か、野党か」というくらい政治観、いや人生観すらも問われる大問題なのだ。アンチ巨人の上司に向かって「長嶋ってすごかったんですか?」と聞いても、いまいましげな顔をされるだけ。

もし上司が70年代の巨人ファンなら、「長嶋の引退試合の日、どこで何をしていましたか?」と聞き、アンチ巨人であれば「(監督として)長嶋が巨人を最下位にしたんですよね?」と聞くのがテッパンだ。それぞれの立場から饒舌に語ってくれるだろう。

また、野球好きの上司ならば、きっと『プロ野球ニュース』(フジテレビ)の視聴者だったはずだ。

『プロ野球ニュース』は1976年から94年にかけて放送された、プロ野球全試合のダイジェストを見せる野球ニュース番組(現在はCSで放送中)。名司会者・佐々木信也(元大毎オリオンズほか)を懐かしむ声は今なお多い。もしキミが番組の名物コーナー「今日のホームラン」でかかるBGM『Vibrations』をハミングしたら、上司は泣いて喜ぶだろう。

名監督の話を振れば間違いない!

さらに、「野球好きの上司」=「監督好き」である確率は非常に高い。管理職ゆえ、名将の采配からヒントを得ようと必死なのだ。

90年代の監督はカラーが鮮明だった。多くの管理職が師と仰ぐのは、ヤクルトで「ID野球」を広めた野村克也、そして常勝・西武を築いた森祇晶(前任の広岡達朗の管理野球に心酔する人も多いので要注意)だろう。また、イチローを登用し「日替わりオーダー」でオリックスを活性化させた仰木彬、存在するだけでカリスマ性を発揮した巨人・長嶋茂雄……。以上の監督と、上司の言動に重なる部分があったら、それは影響を受けた可能性が高い。その監督の話を積極的に振ってみよう。

選手の話で盛り上がるのもひとつの手だ。80年代に強烈なインパクトを残した選手なら、“ドカベン”の愛称で親しまれた巨漢スラッガー・香川伸行(元南海)や、メガネ顔の極端なオープンスタンスに味わいを感じる八重樫幸雄(元ヤクルト)。そして、山森雅文(元阪急)の名前も覚えておきたい。

山森は81年に外野フェンスによじ登って、本塁打性の打球をつかみ捕る超ファインプレーが語り草になった。このプレーは本場アメリカでも称賛され、米国野球殿堂にも写真が飾られているという。「本物志向」の強い上司に山森の名前を出してみたら、「おっ、おまえわかってるじゃないか」とお褒めの言葉をいただけるかもしれないぞ。

90年代の名選手をあげるなら、あのスライダーの使い手!

90年代の選手で絶対に押さえておかなければならないのは、松井でもイチローでもなく、野茂でもKKでもない。伊藤智仁(ヤクルト)である。特に「新人の年の伊藤智仁」がポイントだ。93年にキレキレの「高速スライダー」を引っ提げて三振を奪いまくったシーンは、誰もが脳裏に焼きついている。

残念ながら故障で全盛期は短かったが、短命ゆえそのピッチングは伝説となった。「いかに伊藤のスライダーがスゴかったか」を語るとき、最低1時間はかかるはずだ。

そして00年代の隠れプロ野球ファンを刺激する選手のひとりは、斉藤和巳(元ソフトバンク)。1990年代の伊藤智仁(元ヤクルト)と同様、短命ながら03年に20勝3敗をマークするなど強烈なインパクトを残した投手である。

ただし、ここ数年、プロ野球ファンの「マニア化」をひしひしと感じるのも事実。視聴率の低下などで地上波でのテレビ中継が激減した2000年代。それでも球場の観客動員数が落ちているわけではなく、人気低迷とまでは言い難い。むしろ、今まで大衆的だった野球というスポーツが、今は特定のファンが楽しむディープなものになってきた印象を受ける。

これは、マニアックな野球ファンにとっては微妙な状況だ。プロ野球が大衆的ではないということは、職場で大っぴらには野球の話ができないということ。しかし一方で、あなたの職場にも、ひっそり十字架を隠し持っている隠れキリシタンのような、「隠れプロ野球ファン」がいるのかもしれない。

■週刊プレイボーイ15号「総力特集16ページ プロ野球伝説の瞬間 1970年代~2000年代編」より