先発ローテも揃い、戦力は十分。「勢いさえつけば、このチームは優勝を争えるポジションにいてもおかしくない!」と力強い言葉を放つ中畑監督

いよいよ開幕したプロ野球。巨人以外は混戦といわれるセ・リーグで、意外に評価が高いのが横浜DeNAベイスターズだ。「オフにいい補強ができた」「打線は最強レベル」「CS進出ならあるかも」……などなど、1年前なら絶対に聞こえてこなかったポジティブ系前評判の真偽を探るべく、横浜スタジアムで中畑清監督の“心”を直撃した!

■ついに今年は先発ローテが組める!

――いよいよ勝負の3年目の開幕です。オフに久保(阪神からFA移籍)、尚成(ひさのり・米国から復帰)などを補強し、今シーズンは戦力が充実してきたように思いますが、気のせいでしょうか?

中畑 いやぁ違うねぇ。過去2年と比べても全然手応えが違う。まったく別のチームだよ。他球団も投手陣だけ見たら、「あれ? これどこのチーム? なんでこんなに変わっちゃったの?」な~んて思ってるんじゃないの!? 今年は、先発ローテに名前が挙がるんだからな!

――ここ数年、先発ローテの名前が5人出ませんでしたからね(泣)。去年の開幕3戦目も育成上がりのゼン(鄭凱文・ゼンカイウン)でしたし……エラい進歩です。

中畑 三嶋、井納、大輔(三浦)、それから久保、尚成、モスコーソの新戦力3人に加えて加賀、藤井、加賀美……、今年は先発で10人ぐらい名前が挙がる。“戦える”んだよ。“計算できる”まではいかないけど、戦える状況にはある。ということは、勝つ確率も数段上がってくるわけだ。

去年まではハッキリ言って、選択肢が少なかったから、初めから苦戦覚悟で先発させていた試合が山ほどあった。でも打線がよかったから「8点取られたら10点取ればいいじゃない」という気構えでやる野球になって……まぁ、それはそれでけっこう楽しかったんだけど。

――去年は最多得点で最多失点。7点差を大逆転した試合が3試合もあって、見るほうは非常に楽しかったんですけどね。

中畑 もう、どうしようもないほどの大盤振る舞いだったもんな(笑)。でも、そういうチームの色がついてきたんだ。1年目はまったく打てない、守れないチームで最下位。当たり前だよな。で、2年目は打線のチームになった。投手力はまだ。ただし、点は入る、逆転できる。そういう面白いゲームができるようになったのも、1年目、戦力がないなかでも言い訳をせず、あきらめない野球をやれたことが大きい。

俺はこの2年間、「積極的なミスをしろ」「最後の最後まであきらめるな」ってことしか言っていない。シンプル・イズ・ザ・ベスト。あきらめなければ奇跡は起こせる。最後の最後まで、10-0でも、下を向かずに1点を取りにいく。そういう野球を徹底したことが、ファンにある程度共鳴してもらえたと思うんだよね。

――確かに、勝ちきれなくとも粘り強くなったとは思います。

中畑 そのあきらめない空気が浸透してきての、去年の豪快な野球。去年は8月アタマまで3位にもいたんだよな。慣れてなかったな! 俺も慣れてない(笑)。でも、もしかして、このままあとちょっとだけ頑張れば、俺たち間違いなくCSに行けるんじゃないか。そんなふうに目標が設定できるチームになったよな。

――12球団で唯一、CS争いすらしたことなかったですからね。大きな経験だったと思います。

中畑 それだけじゃない。失点が減れば、優勝争いもできるんじゃない?っていうね。そういうところまで、意識改革ができてきたんだよ。

選手の成長で真のキャプテンも誕生

――去年の最終戦のスピーチでおっしゃった「CS以上の最高のてっぺんを獲りにいく」ということが現実になりつつあると!

中畑 ……まぁ、あれを言ったときは、イカサマだったけどな(笑)。

――え? ウソだったと?

中畑 ウソではないんだけど、“てっぺん”という言葉にはいろんなとらえ方があるだろ? われわれの本音は優勝しかない。ただ、優勝するような力はないから、そういう言い方でごまかしたのよ。

――そんな、政治家みたいなズルい言い方……。

中畑 だけどな、昨年の秋から開幕までの間に、現場もフロントもこの球団の全員が一丸となって、強いチームをつくろうと本気になって頑張ってきた。

今年の春のキャンプで俺、監督に就任して初めて“優勝”という言葉を使ったよ。優勝宣言だな。うん。もうしてもいい雰囲気は十分にあるだろ。

――CSすらも出たことがないのに、いいんですか? ファンの顔色うかがいのための、よくある“現実感の伴わない優勝宣言”はもういらないですよ。

中畑 違います! 間違いなく勝てるという手応えを感じているよ。選手にも“優勝、最低CS”という言葉で洗脳し続けているんだから(笑)。勢いさえつけば、このチームは優勝を争えるポジションにいてもおかしくない! あとは、その勢いをどうやってつけるかが問題だ。力があっても、チームの中がバラバラでは絶対に勝てない。そこに何が必要か。“心”をひとつにしていくこと。それさえあれば、チームは鬼に金棒なのよ。

――そういう意味で今年のチームスローガンが「心」なんですね。1年目の「熱いぜ!」、去年の「勝(かつ)」に比べると、悟りを開いたかのように穏やかですが。

中畑 “心”と書いて、自己犠牲と読んでもいいかな。1年目は自分のことに精いっぱいで、自己犠牲のできない選手が多かった。それが、徐々に意識が変わり始めた。送りバントや右打ちはなんのためにするか? 自己犠牲、チーム愛だろ。そういう気持ちがあれば、送りバントも一球で決められるようになる。こういう選手たちの変化というのが、目に見えてきているよね。

貴重な先発ローテーションとして、今季チームに加わった尚成(高橋尚成・上)と久保(下)。彼らに加えて、三浦、藤井ら経験豊富なベテラン勢と、三嶋、井納、ルーキー三上ら若手投手陣がシーズン通して働いてくれれば、まさかの“投手王国ベイスターズ”が誕生か!?

■横浜DeNAファンが長く誇れるチームに

――これまで長い低迷を見続けてきたので、にわかに信じ難いですが、なぜ選手たちは成長できたのですか?

中畑 充実した野球ができてきているからだろうね。最も顕著なのはキャプテンの石川だよ。秋のキャンプの最終日に、自分から「来年もキャプテンをやらせてください」って言ってきたんだからさ。

――もともと、責任感を持たせるために半ば無理やりキャプテンをやらせて、去年は練習態度に問題ありと二軍に落とされもした石川キャプテンでしたが……いったい、どんな悟りを開いたと?

中畑 人として、チームとしての生き方、自己犠牲の必要性、そんなものが少しずつわかってきたんじゃないかな。……すごい努力していると思うよ。キャプテンとはなんぞやというものを模索しながらね。これまではわが道を行く、力のあるいい選手。それだけだったけど、もうひとつ大事なものをつかんでくれた気がする。

そうやって周囲からも信頼される人間になってきているから、飾り物だったものが、真のキャプテンといわれるまでに成長しているよ。まだまだ、足りないけどな。

生え抜き選手の台頭で“俺たちの代表”的なチームに

――しかし上位進出するためには、一昨年は4勝17敗3分。昨年も5勝18敗1分とコテンパンにされた巨人と互角に戦えないと話になりませんよ!

中畑 ホントだよな。今年も同じような勝ち方をされたらプロ野球が終わっちゃうって。あの圧倒的な戦力を、何がなんでも食い止める。ウチがやりますよ。なんとかします。巨人を止めれば、今思っている奇跡も起こせる。やるからには優勝だから。

――そういう意味では、これまでは“育てながら勝つ”という方針でしたが、今年は勝利を最優先にしていくと。

中畑 この1年間もどう成長させていくかだよ。これまでも1年目は荒波、あの入団時はまだまだ戦力にならなかった選手が、2年連続ゴールデン・グラブ獲れるようになった。梶谷も去年カタチになったけど、危険度が高い選手だよ。去年はできすぎ、想定外だ。俺は打線のキーは3番と5番と決めてる。カジが1年間3番を打ち続けて、4番がブランコ……。

――5番にオープン戦で絶好調だった筒香(つつごう)が固定してくれれば。

中畑 そうよ! シーズンを通して、このクリーンアップが機能すれば、間違いなく若くして最高のチームバランスが出来上がる。今のレギュラークラス、見渡してみてよ。一、三塁以外、みんな生え抜きだから。

――キャッチャー黒羽根、セカンド石川、ショート山崎、レフト筒香、センター荒波、ライト梶谷。あれ? ホントだ。数年前までツギハギだらけだった野手陣がいつの間に若手の生え抜き天国に!

中畑 一番年上が荒波の28歳。年齢的にめちゃめちゃ若いメンバーだよ。彼らがうまくハマれば、この数年間は固定メンバーで戦える。横浜DeNAファンが長く誇れる“俺たちの代表”的なチームになるよ。今年はそれを実現するところ。

あとは強烈なキャラクターをつくりたいけど、そうなると俺が邪魔なんだよな。どうしても俺のほうが目立つから(笑)。

――キャラで監督を超えることは不可能だと思います。

中畑 ここまでは俺の計算どおりになってきている。だからあとは俺の采配だな。それでチームを勝ちに持っていけるか。今まで以上に大胆な指揮をしていきますよ。 そのために、俺は優勝というイメージを強く持ちたい。選手よりも強く、誰よりも強く持たないといかんな、俺は。打たれ弱いからさ(笑)。

――それを踏まえて、もう一度聞きます。2014年はどういうシーズンにしたいですか?

中畑 だから、優勝だって言ってるじゃん! 優勝! それ以外考えない! 頑張りますよ! DeNAベイスターズの野球はお客さまと共存共栄していく野球。だから、お客さまが願う野球を肌で感じて提供したいと思っているし、それができるチームになりつつある。最後に目指すものは同じ方向。共存共栄で優勝ですよ!

――まさに願いをカタチにする野球! 昨年みたいな大逆転劇もまた期待できますね。

中畑 いや、そういう野球はあんまりできないだろうな。ホラ、今年は点を取られないからさ(笑)。

(取材・文/村瀬秀信 撮影/五十嵐和博 小池義弘[尚成、久保])

今年のチームスローガンは「心」。選手たちも徐々に意識が変わり始め、「自己犠牲」「チーム愛」を持ってプレイできるように

 

ジャイアンツの巨大戦力とは「心で戦う! 今年はそれができる! ガハハハハ!」と確かな手応えを語る中畑監督

●中畑清(なかはたきよし)横浜DeNAベイスターズ監督。1954年生まれ、福島県出身。75年、駒大から巨人入り。ハッスルプレーの“絶好調男”として活躍。アテネ五輪日本代表監督などを経て、201 1年に新生DeNAの監督に就任。昨季は07年以来の最下位脱出を果たす