EUに加盟して独立国家としての道を歩むのか、それとも大国・ロシアに編入されるべきなのか――。革命から約3ヶ月がたった今も東部地区で銃撃戦が展開されるなど、ウクライナ情勢はより一層混迷を極めている。

このウクライナ情勢でキーパーソンとなっているのが、いわゆる「ネオナチ」だ。その中心は昨年12月に過激派極右組織が集まって結成された政治団体「右派セクター」。規模は5000人から1万人といわれており、彼らが武力をもって親ロシアの旧政権を打倒し、現在も戦闘を繰り広げているというわけだ。

そもそも、ウクライナにおけるネオナチ勢力の広がりには、ヨーロッパとロシアに挟まれて国の東部と西部が“分断”されているという独特の事情も大きく関係している。

東部は、旧ソ連時代に強制移住させられたロシア系住民の割合が高い。多くの学校ではロシア語を使用し、ウクライナ語を話せない人も少なくない。にもかかわらず、石炭の資源が豊富で、工業が盛んで、小麦の生産地としても世界有数……と、ウクライナの主要産業が集中している。

一方、中・西部では人種的な意味での「ウクライナ人」が人口の大半を占めるが、産業が乏しく、失業率も高い。EUに加盟して豊かになりたい、と考える人々が多い上、もともと歴史的な背景から対ロシア感情が悪い。

国際ジャーナリストの河合洋一郎氏が解説する。

「1932年から33年にかけて、ウクライナで大飢饉(ききん)がありました。それでも当時のソ連政府が外貨獲得のためにウクライナの小麦を輸出に回し続けたことで、約700万人が餓死したといわれます。これでソ連への憎悪を抱いたウクライナ人は、41年にソ連へ侵攻してきたヒトラーのナチス・ドイツ軍に協力してソ連軍と戦ったのです。

特に西ウクライナの人々は、ドイツ軍が押し返され始めた後もパルチザンとして戦い続け、戦争が終わってソ連に併合された後も10年近く反ソ闘争を継続しました。この過去が、一部の人々のナチスに対する抵抗感を薄め、ソ連(ロシア)に対する敵愾心(てきがいしん)をより後押ししているのではないでしょうか」

こうした事情から、特に貧しい西部を中心に、反ロシアを声高に叫ぶ「ウクライナ版ネオナチ」の人気が高まったわけだ。

過激すぎるゆえ、ネオナチは邪魔な存在になった

しかし、今年2月の革命達成後には、あまりに過激なネオナチが“邪魔”になった暫定政権が、彼らを切り捨てようとする動きも出てきた。3月25日には、右派セクターの大物幹部アレクサンドル・ムジチコが、ウクライナ特殊部隊との銃撃戦の末に死亡している。

しかし、暫定政権はネオナチを切り捨てることができなかった。

「4月7日にウクライナ東部のドネツク州、ハリコフ州が独立宣言したことで、状況は一変しました。彼らはクリミアの例に倣い、住民投票でロシアへの編入を目指すつもりです。そのため、暫定政権側にとっては、東部の分離・独立主義者たちを制圧するために、“やっかいもの”である過激な右派セクターの力が再び必要になってきました。皮肉な話ですが、ロシアや東部の独立派という“敵”のおかげで、右派セクターは延命を許されたといっていいでしょう」(前出・北野氏)

実際、ロシア外務省は、ウクライナの暫定政権が東部に送り込んだ警察部隊の中に、右派セクターの武装メンバーが含まれていたと発表した。また、彼らの仕業であるかどうかは定かではないが、ドネツク州など独立を求めている東部では、ロシア系の有力者が何者かに連れ去られる事例が頻発。独立デモ参加者らは夜間の単独行動を避けているという。

「報道によると、右派セクターは最近、ロシア国籍を持つウクライナ人たちからなる“ロシア人部隊”を結成し、さらにウクライナ内務省や情報機関の元将校を組織にリクルートしています。彼らはクリミアやロシア領に潜入し、破壊工作や暗殺を行なうテロ要員となる可能性があります。

また、右派セクターのリーダーのドミトロ・ヤロシは、ロシアの天然ガスと石油をヨーロッパに運ぶパイプラインを破壊すると公言している。ウクライナのネオナチ勢力がこうした行動に打って出れば、当然、ロシア側は報復を行なうでしょう。ヤロシについては、ロシアがすでに暗殺作戦に着手しているようですが、思いもよらぬことがきっかけで暴力の連鎖が始まり、戦争に発展する恐れも出てきます」(前出・河合氏)

その力を利用してきた欧米や暫定政権にとっても、今や“内なる爆弾”となったネオナチ勢力。敵をつくることでしか存在価値を証明できない彼らのゴールはどこにあるのだろうか?

(取材協力/川喜田 研)