2012年ロンドン五輪にて、日本人女子で初めて近代五種に出場した黒須成美選手

経験ゼロから東京五輪を目指せる競技を、真剣に調べていた週プレがたどり着いた結論。それは「近代五種」を今から始めることだった! 

2020年、夢の舞台に立つことを目指し、キミもチャレンジしてみる?

■「近代五種なら東京五輪は今からでも目指せます!」

今、「近代五種」がにわかに話題となっている。

日本国内での競技人口が男女合わせてなんと約30名! タレントの武井壮さんも東京五輪への挑戦を表明しているが、「開催国枠」が確保される2020年のオリンピックなら「もしかしたら俺だって……」、そう思ってしまうオトナが増えているそうなのだ。

では、競技内容を説明しよう。

近代五種はフェンシング、水泳、馬術、射撃、ランニングの5種目を順次に行なう競技。初めに先の3種目を行ない、それぞれの結果を規定のポイントに換算。「1ポイント差=1秒」とし、上位の選手から時間差でスタートして、射撃とランを交互に繰り返す「コンバインド」を4セット行ない、ゴールした順位が最終的な結果となる。

2008年の北京五輪までは、射撃が国内では銃刀法に触れたため、警官・自衛官が選手の大半を占めていたが、競技用の銃がレーザーピストルに変更して以降は、一般選手も参加しやすくなっている。

体力面、精神面、技術面と、スポーツに必要な要素が凝縮されている上、仮に1種目失敗しても挽回可能な、ゴールテープを切るまで勝敗が予測不能な競技。なるほど、確かに挑戦しがいがありそうだ。ただ、東京五輪出場を目指すべく、この競技に挑戦しようと思ったとき、どこで何から始めればいいのだろう? 縁遠い乗馬? フェンシング? 最初の“とっかかり”を、日本近代五種協会事務局長、市川祥宏さんに聞いてみた!

近代五種じゃなくて三種に四種?

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「近代五種をやりたい? ぜひやってくださいよ! ひとりでも競技人口が増えるといいので(笑)。まずは、『近代三種』から始めるのがいいかもしれませんね」

さ、三種? あの、僕らがやりたいのは“五種”なんですが。

「そのための“三種”なんです! これは近代五種の種目のうち、水泳、ランニング、射撃で行なう競技。銃もBB弾用と手軽で、どこでも練習できます。ここでまず力を蓄え、五種にシフトするんです」

のっけから驚いたが、近代三種は、こちらの協会が近代五種普及のために始めた、日本発祥の姉妹競技。今年から国際大会も開催されることとなった。スタート時のハードルも低く、誰もが参加可能。全国で練習会や大会も活発に行なわれている。実際、ここで優秀な成績を収め、近代五種の強化選手となる人も多いという。

ただ、どうせ東京五輪を目指すなら、最初から“三種”より“五種”のほうが、回り道せずにいいのでは? 馬術なんて、早くから実戦で鍛えたほうがいいと思うし。

「実は、乗馬経験はそれほど生きてくるわけでもないんです。というのも、大会ではあらかじめ用意された馬にくじ引きで乗るので、ある種、運次第なところがあるんです(笑)」

抽選!! 運次第かつ馬次第!

「そういえば、今年2月にメキシコで行なわれたワールドカップでは、当日になって大半の馬が障害を飛び越せない駄馬だと判明し、急遽(きゅうきょ)、オープン大会に変更されました(苦笑)。国内の大会でも“会場の都合”で馬術を省き、“四種”になることもしばしばありますよ」

なんとファジーな競技(笑)。ひょっとしてフェンシングも……?

「フェンシングはもともと競技人口が少ないので転向組も少なく、得意な人も多くない。だからすぐに完璧を目指す必要はない。近代五種といっても五種すべてが完璧な選手はいません。有利なのはベースとなるフィジカルの能力に優れた選手。技術はその後に鍛えればいいんです!」

市川さんによると、日本フェンシング協会のホームページにある練習場案内や、地域の乗馬クラブをネットで調べてみるのが、まずできるベストの選択肢とのこと。

「近代五種でも近代三種でも、まだまだ競技人口は少ないから、これから頑張れば強化選手となって、東京五輪に挑戦できる可能性はありますよ。まずは大会をご覧いただき、近代五種の魅力を堪能してください!」

実際にやってる様子はかなりしんどそう……

■「近代五種」の大会に潜入! それは過酷な闘いだった……

ということで週プレは、陸上自衛隊の朝霞(あさか)駐屯地内で行なわれた近代五種の「合同記録会」に潜入。この記録会は、6月にフランスで開催される国際大会へ派遣する選手の選考会を兼ねた公式大会。出場者は、昨年の日本選手権に出場した男子13名と女子6名で、この中から男女各3名が選ばれることとなる。普段、テレビでは観ることができない近代五種の試合がどんなものかを観戦だ! ちなみに今大会も諸事情により、馬術ナシの“四種”バージョンで開催!(笑)

朝8時。最初の会場となるフェンシング場へ。続々と参加選手たちが会場入りするなか、週プレが注目するのは法政大学の藤谷直俊選手。体格は小柄ながら、なんと近代三種では千葉大会ジュニアの部で3連覇を達成した猛者である。屈強な自衛官や警官たちにどう立ち向かうのか!

開会式を経て、9時、最初の競技、フェンシング開始。1分間1本勝負。1分間で勝敗がつかなければ両者とも負け扱い。総当たり戦のため、次から次へと相手が呼ばれ、ほぼ切れ目なく試合が続く。まるで空手の「百人組手」のようだ。いやでもこれ、けっこう、キツいかも。藤谷くんは積極的に攻めるも、決定打を与えられず、苦戦が続く。13人中10位で終了だ。

そして、プールへ移動。12時40分からは200m自由形の水泳。ホイッスルが鳴り、選手たちは一斉に飛び込む。4コースの藤谷くんは……速い! 7人中3番目のペースで50mから100m地点へ。前の選手のペースが落ちたところを抜いて2位でゴール!

休憩を挟んだ後、グラウンドへ移動。最終種目、コンバインドへ。ここまでの点数から、藤谷くんは10番目のスタートに。顔つきを見ると、疲労の色が隠せない。体力的な消耗に加え、絶え間なく続く緊張感がこたえているようだ。

選手の人数分、的が設置され、自分の番号の的に向かう。レーザーピストルは約1kgで、引き金を引くと発砲音が。真隣の選手が続けて的に当てると、焦りからまったく当てられなくなることも

15時25分。試合が始まると上位選手が順次飛び出し、まずは射撃へ。直径約6cmの的へ5発命中させた順にランへ移行し、それを4セット繰り返すのだが、なかにはまったく的に当てられない選手も。これは焦る! しかも全員、全力で走ってきた後、息が切れるなかで撃つのもつらそうだ。最初は1位だった選手が順位を落とし、いつの間にか3位に。

一方、藤谷くんの射撃は見事! 見る見るうちに5発をクリアし、9位の選手を追い抜く。……が! ランがイマイチ。せっかく抜いたのに、また抜き返されるなんて! ゴール後、一日中張っていた緊張の糸が解けたのかグラウンドの上にダウン。結局、最終順位は10位に終わったのだった。

閉会式は17時30分に終了。長い長い一日がようやく終わった。

最後に、藤谷くんに話を聞いた。

バランスよく鍛えれば五輪も夢じゃない?

――今日の出来はどうでした?

「スイムと射撃はともかく、ほかはまだまだで。特にコンバインドは銃で抜いてもランで抜き返されてすごく悔しいですね」

――そもそもなんで近代五種を?

「母が乗馬クラブで働いてたので、馬術をやってたんです。あとずっと水泳部で。中3のときに、それらが一緒にやれるスポーツがあると知って興味を持ちました。最初は近代三種から入り、昨年に五種に転向しました」

――普段の練習は?「乗馬は母の手伝いをして、馬に乗せてもらってます。フェンシングは近所のクラブで、水泳は大学の水泳部に所属して泳いでます。ランと射撃は自宅練習です」

――初めての人でもできる?

「もちろん。近代三種から入るのがオススメですね。僕自身、インターハイに出るとかすごい選手ではなかったけど、近代五種の世界ジュニア大会に行けましたし。バランスよく練習し、成績を上げていけば上も狙えると思いますよ」

――近代五種の魅力はどこ?

「やっぱり5種目で戦えるところ。ひとつの競技で終わることなく、5つを積み重ねて、結果を出す部分にハマりました。あと、コンバインドでごぼう抜きしたときは、本当に気持ちいいです」

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体力、技術、メンタルからくじ運まで(笑)。まるで自分の能力の限界を試されているかのようなこの競技。過酷だからこそ、得られる充足感は決して小さくはない。大会を観戦し、藤谷くんの話を聞いたら、週プレは本気で挑戦してみたくなってしまいました!

さあ、東京五輪まで6年。決して今からでも遅くない。一生に一度の夢の舞台を目指し、キミもチャレンジしてみないか?

法政大学の藤谷直俊選手、21歳。近代五種の普及に尽力したいと力強く語ってくれた

(取材・文/大野智己 撮影/佐賀章広)