ストーカーという題材の着想は、2年前からやっているごみ収集のアルバイトから得たという滝沢秀一氏

ストーカーを題材とした小説は数あれど、これほどまでに生々しく、臨場感に満ちた作品はまれだろう。圧倒的なスリルとスピード感、そしてラストの展開を読者に選択させるという新機軸をもって、ひとりのお笑い芸人が颯爽(さっそう)と文壇デビューを果たした―!

『かごめかごめ』を書いた、お笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一氏を直撃した。

―小説を書こうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

「僕は大学で英文専攻でしたし、もともと小説が好きでよく読んでいたんです。芸人として少しでも仕事の幅が広がればいいなと小説を書き始め、7、8年前から毎年文学賞に応募していました。まったくだめなら早々に諦めたんでしょうけど、たまに三次選考まで残ったりするので、『俺、才能あるかも?』と勘違いしてやめられなくなってましたね(笑)」

―ストーカーという題材の着想はどこから?

「2年前からごみ収集のアルバイトをやっているんですが、何度も同じルートを担当しているんでいるのかわかるようになってくるんですよ。袋越しでも男性が出したごみか女性が出したごみかわかりますし、きっと請求書の類いもそのまま捨てている人が多いと思う。これをあさられたら、自分の生活が丸裸にされてしまうなと感じたのが発端でした。何しろ、レシートを見れば何時何分にどこのコンビニへ行ったかまでわかってしまうわけですからね」

―今回の作品は小説サイト『E★エブリスタ』に投稿されたものですが、文学賞ではなくこうしたサイトに挑戦したのは?

「たまたま仲間にこのサイトを教えてもらって、面白そうだなと。それまでは純文学を書いていたのですが、携帯小説は読者層が若そうなので、わかりやすいエンターテインメントを書いたほうがウケるだろうと考え、初めてホラー小説を書きました」

―それにしても、実際にストーキング経験者でなければ説明がつかないほどのリアリティです。

「それ、よく言われます。『おまえ、ストーカーの上にサイコ野郎だったのか!』って(苦笑)。でも、赤川次郎先生だって人を殺したことはないはずなのに、殺人事件をたくさん書いているじゃないですか? それと同じです」

ラストシーンを読者に選ばせるというギミック

―そして、ラストシーンを読者に選ばせるというギミックも、本作の最大の特徴です。

「正直に言うと、オチを決めず書き始めたのでこうなってしまったんです。途中で2パターンの結末を思いついて、どっちも捨て難いから、じゃあ読者に選んでもらおうと」

―芸人活動と執筆の両立はハードだったのでは?

「バイトの休憩時間やライブの待ち時間、あるいは移動中などにスマホで執筆していました。それを最終的にパソコンで清書したんです。スマホに機種変した矢先だったので、フリック入力の練習にもちょうどよかったですね(笑)」

―ネタ作りと今回の小説執筆には、共通する部分もありますか?

「怖がらせようとする点ではお笑いと真逆ですけど、頭の使い方は同じです。どうすれば読者を怖がらせられるかという、“怖いもの大喜利”をやっているような感覚で書いていました」

―こうして作品が本になったことについて、相方の西堀亮さんはなんとおっしゃっていますか?

「あいつ、読んでないんですよ。照れ隠しとかじゃなく、本当に読んでないっぽいです。そのくせ、『映画化するときは俺も出してくれ』なんてずうずうしいことを言ってくるんですが、『絶対出してやるもんか!』って感じですよ」

(構成/友清 哲 撮影/村上庄吾)

●滝沢秀一(たきざわ・しゅういち)1976年生まれ、東京都出身。98年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。スマホ小説サイト『E★エブリスタ』で連載していた『鬼虐め』が多くの読者の支持を受け、電子書籍大賞双葉社賞を受賞。『かごめかごめ』と改題し、小説家デビュー

■『かごめかごめ』 双葉社 1300円+税同じ女をストーキングするライバルを殺めた、主人公の「オレ」。着々と完全犯罪の足場を固めつつ、女の日常を支配しているつもりでいたが、ある日、女のごみの中から出てきたのは、自分宛てのメッセージだった―。E★エブリスタ電子書籍大賞2013双葉社賞受賞