現在、日本における若者(15~34歳)のフリーターの数は約180万人、ニートの数は約60万人。そんな彼らを救済するため、政府はさまざまな「若者就労支援事業」を手がけているが、そのひとつ、厚生労働省が担当する「短期集中特別訓練事業」に“談合疑惑”が浮上している。

この事業の内容について『「職業訓練」150%トコトン活用術』の著者である日向咲嗣氏がこう説明する。

「ニートや、非正規で転職を繰り返している若者らを対象に、1~3ヵ月の職業訓練を受けてスキルアップさせ、早期に就職を目指すための訓練事業です。正規雇用の経験がなく、雇用保険を受給できない人が無料で専門スキルを習得できる上、“月10万円+交通費(職業訓練受講給付金)”をもらえるのが基本的な仕組み。

もともと、3~6ヵ月の訓練コースがあったのですが、より早期の就職を望んでいる人向けに今回、厚労省が新規事業として予算をつけたんです」

今年2月に公示された入札には、独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」(JEED)のみが参加し、3月、当然のことながらJEEDが落札している。

JEEDとはどういった団体か? 衆議院議員の玉木雄一郎氏(民主党)が解説する。

「JEEDは厚労省の出向者やOBが多数在籍する独立行政法人ですから、言ってしまえば厚労省の“天下り団体”です。ここは、働く人が納めた雇用保険料を財源に大規模な保養施設を造ったりして批判が多かった雇用・能力開発機構の後継組織。民主党政権時に事業仕分けで廃止された後、JEEDに看板が付け替えられました。先輩やOBがいる組織に多額の予算を流す体質は旧機構時代から何も変わっていません」

玉木氏が、2013年12月9日に交わされた両者の会話を明かす。

入札公示日のドタバタで不正が発覚

「JEEDが作成した議事録によれば、厚労省の担当者がJEEDを訪れ、事業内容を説明した上で『あなたのところに落とします。受けてくれますね?』と受託の依頼をしています。それに対し、JEEDの担当者が『“一者応札”になることは問題にならないか?』と懸念を示すと、厚労省の担当者は『問題ありません』と発言。さらに『アベノミクスは弱者に厳しいとの指摘もある。この対策はタイミングもいい』と念押ししています」

この事業は厚労省が任意で受注業者を決める随意契約ではなく、複数の入札参加者が提出した企画書の内容で決める企画競争入札が採用されていた。だが入札公示日の2013年5月18日、“偽装入札”は露見することになった。

「その日、予定どおり厚労省のホームページに入札公示情報が掲載されました。しかし、その直後に削除され、翌19日に入札参加要件を書き換えて再掲載されるのです。

このとき削除されたのが『キャリアコンサルタントの必置要件』という項目。掲載後にJEED側から『その資格要件はクリアできない』と連絡を受けたため、厚労省側がその要件を省いて再掲載したと思われます」(玉木氏)

こうして予定通りにJEEDが149億円事業を落札したというわけだ。入札事業に関わった担当者を、官製談合防止法違反で刑事告発するつもりだという玉木氏が、こう語る。

「今回悪用された『企画競争入札』では入札の際に発注側(各省庁)で特殊な条件をつけることが可能で、それを厚労省は自分の天下り団体であるJEEDだけに該当するように操作し、彼らの独占事業としたわけです。JEEDは日本の職業訓練事業をほぼ独占している団体でもあります。今回の不正は氷山の一角にすぎません」

(取材/興山英雄)

■週刊プレイボーイ21号「霞ヶ関の『若者支援』便乗がゲスすぎる!!」より