先日、テレビのロケでブラジルに行ってきた。2月に続いて、早くも今年2度目の訪問だ。

前回はカーニバルに向けての準備に力が入っていて、空港でも街中でも「もうすぐW杯だ」という雰囲気はほとんど感じられなかった。でも、さすがに今回はW杯開幕まで1ヵ月ちょっとだし、それなりに盛り上がっているだろうと思っていた。

ところが、その予想は外れた。テレビや新聞が取り上げるサッカー情報は、まだまだ各州リーグや全国選手権など国内の話題が中心。街中のスポーツバーみたいな飲食店でも、人だかりができていたのは、欧州チャンピオンズリーグの準決勝が生中継されていたときだけ。まあ、ブラジル代表のメンバーが発表されたし、これから一気に盛り上がっていくとは思うけど、大きなイベントがあると、そのだいぶ前からメディアがファンを煽る日本とは感覚がまったく違うね。

今回、僕はリオデジャネイロとサンパウロを中心に滞在し、サッカー関連の場所だけでなく、ブラジルの観光名所もいくつか訪れた。そのひとつがイグアスの滝だ。世界三大滝のひとつで、実は僕も初めて生で見たんだけど、ものすごい迫力だったよ。ナイアガラの滝がかわいそうになるくらいの圧倒的なスケール。日本代表の応援でブラジルを訪れるサポーターには、時間があればぜひイグアスまで足を延ばしてほしい。絶対に損はしないから。

肝心のサッカーでは、サンパウロで記念すべき一戦を観戦してきた。僕の古巣コリンチャンスの伝統あるホームスタジアム、パカエンブーで行なわれる最後の試合だ。パカエンブーはサッカーどころのブラジルでも“聖地”とされるスタジアムのひとつだけど、コリンチャンスはブラジルW杯の開幕戦が行なわれる予定のアレーナ・コリンチャンスへの本拠地移転を予定している。

老若男女問わず容赦ないブーイングや罵声が

日本でも今、「最後の国立競技場」といって盛り上がっているけど、それと同じような感じだね。僕も現役時代にプレーした場所だけに感慨深い気持ちになった。なかなかトップチームに上がれないなか、サテライト(二軍)リーグで頑張って優勝を決めたときのことを思い出したよ。

この日の対戦相手は同じくサンパウロの人気チーム、フラメンゴ。コリンチャンスの選手たちは背番号の下に「ありがとう、パカエンブー」と刺繍が入ったユニフォームを着て、2-0で快勝。パカエンブーの最後にふさわしい結果を残してくれた。

スタンドはもちろん満員。雰囲気も最高で、親子三代で観戦しているファンの姿も多かった。それでも試合が始まればみんな真剣で、味方のパスミスや審判の微妙な判定には、老若男女問わず容赦なくブーイングや罵声を浴びせる。別にJリーグの応援スタイルを否定するつもりはないけど、こういう厳しい環境がブラジルの選手をたくましく育てるんだ。

また、スタジアム外にも、凄まじい数の飲食物やグッズを扱う露店が並んでいた。サッカーを通じて、地元の多くの人が商売をする。それで地域が潤い、一体感も生まれる。ブラジルならではの光景だ。

W杯に向けての盛り上がりはいまひとつでも、決してサッカー熱が衰えているわけではない。自分の生まれ育った場所なんだけど、あらためてブラジルは面白い国だなと思ったよ。