ヘラクレスオオカブトは体長16cmをかえすと15万から20万円の値も

“黒いダイヤ”とも呼ばれ人気を集めるクワガタ。虫とはいえ、クワガタやカブトムシなどは高額な価格がつくらしい。飼育し販売すれば一攫千金も夢じゃない? この副業で大忙しだというマンガ家・岡村茂氏が繁殖、そして標本も含めた奥の深い世界を解説する。

■大きく育てて血統をブランド化

かつては1000万円の高値がついたこともあり、“黒いダイヤ”と呼ばれるオオクワガタ。99年に外国産昆虫の輸入が解禁され、愛好家の嗜好(しこう)が多様化したこともあって、宝石並みの値段がつくことは少なくなった。

しかし、それでも昆虫の世界はまだまだ熱い! ブリード(繁殖)技術も進歩し、知識があれば小学生が90mm近いオオクワガタをつくるのも夢じゃない。体の大きな成虫は数万円で売れるため、趣味と実益を兼ねたサイドビジネスとしても有望なのだという。

パチンコ・パチスロマンガの『ドラゴン先生』シリーズで知られるマンガ家・岡村茂氏は、虫の世界にどっぷりハマり、2005年からは副業として昆虫販売とその関連イベントを行なっている。

「現在、ブリードは国内および海外のカブトムシ、クワガタムシが主流です。飼育はケースに入れて室内で行なうため、都会のワンルームで暮らすサラリーマンでも気軽に始めることができます。クワガタ、カブトは産卵と幼虫飼育に温度管理が必要で、室内温度を一定に保てることがポイント。でも、夏場にエアコンをつけっぱなしにしても電気代はそれほど高くないので、誰にでもできますよ」

ブリードの環境が整ったら、親虫を野外で採取するか、昆虫ショップなどで購入する。野外のメスはほとんど交尾済みなので、そのまま産卵ケースへ。人工飼育成虫は未交尾で販売されているので、雌雄ペアで交尾させる。

巨大化した子供で10万円GET

「メスがどのように産卵するかは種類によって異なるので、ネットで生態を調べたり、購入したショップにアドバイスをもらうといいでしょう。産卵が確認できたら、卵を取り出して1個ずつ飼育すると、大型個体が出る可能性が高まります。クワガタ、カブトは幼虫時代に大きさが決まります。専用マットや菌糸ビンなどの飼育用品を手に入れて、できるだけ大きく育てましょう」(岡村氏)

育って成虫になったら、昆虫専門ショップに卸したり、ネットオークションで販売する。もちろん、幼虫時代に売ってもいい。

ここで重要なのは、常に自分が飼育中のクワガタ、カブトの市場価格をリサーチしておくこと。

「ブリードで大切なのは、価格が下落しそうにないものを育てることです。価格が下がらないのは、種を問わず体長の大きなもの。また、原産国の規制などで日本への入荷が難しい昆虫も高い需要が見込めます。さらに、飼育テクニックに自信がついてきたら、ブリードで親虫より大型の成虫羽化に挑戦です。例えば、ヘラクレスオオカブトなどは1ペアを1万円で購入して繁殖させ、増えた子供で10万円儲かったなんて話がいくらでもあります」(岡村氏)

クワガタやカブトは体長の大きい個体から大きい子供が生まれる確率が高いため、ブリーダーたちは、デカイ昆虫が出現すると“○×血統”と名づけて販売することも多い。こうした自分だけの“ブランド化”に成功すれば、サイドビジネスとしても軌道に乗りやすくなる。

■富裕層が顧客の標本ビジネス

昆虫飼育は生き物が相手だけに、「ぐあぁ~、全部死んでるぅ~!」という悲劇が起きることもある。

ところが、岡村氏によれば、虫が死んでしまっても新たな商品に生まれ変わる可能性があるという。それが「標本」ビジネスだ。

世界的ビジネスチャンスかも?

「昆虫標本は“大人の趣味”として欧州を中心にコレクターが多く、場は世界規模。億単位のお金をつぎ込む貴族もいます。日本でも、経済的に余裕のあるシニア層の愛好家が多い。かつて昆虫少年だった人が、人生に成功した今、子供の頃の夢をかなえようとするのでしょう。最近は、将来の値上がりを見込んで投資目的で参入してくる人もいますね」(岡村氏)

サイドビジネスとして稼ぐには、自分で採取した昆虫を「標本コレクション」にして専門ショップに卸したり、ネットオークションに出品する。目利きであれば、誰かから標本を買って転売してもいい。クワガタ、カブトに限らず、カミキリムシからチョウまでなんでもありだが、標本の場合、人工飼育よりも野外採取もののほうが圧倒的に価値が高い。

体長の大きなものや、希少なものが求められるのは生きた虫と同じだが、標本はより学術的で高度な知識が必要だという。

「標本の世界では、珍しいと思って入手したものが後から大量に出回って暴落することもあるので、株や先物商品と同じように常に市場をリサーチすることが大切です。特定の種類を集めている顧客をつかむため、マニア間での情報交換も欠かせません。

私は以前、“幻のカブトムシ”とされるサタンオオカブトを南米ボリビアまで探しに行き、山賊やゲリラの潜む密林に分け入って怖い思いをしました。幸い無事にゲットできて標本にしましたが、まさに命がけです」(岡村氏)

なかには、違法採取で現地の警察に捕まり、長期間拘束されてしまった人もいるとか……。

こうなると、もはやサイドビジネスの域を超えてしまうが、昆虫の世界に“一攫千金”のロマンがあることは間違いない。

(取材・文/奥田圭三郎 頓所直人 興山英雄 撮影/岡村茂)

日本産オオクワガタ。大アゴが太い人工飼育のオスが人気で、血統名をつけての販売が主流。85mm以上なら10 万円以上も

あの昆虫のお値段は?

世界最強といわれるパラワンオオヒラタクワガタ。10cmをかえすと10万円以上!

岡村氏が所有する販売用標本の例。ひときわ大きいタイタンオオウスバカミキリ(ブラジル産)は、なんと11万5000 円!

ズラリと飼育ケースが並ぶ岡村氏のブリードルーム。スチール棚などにキレイに収納すればそれほどスペースはとらない