南シナ海に浮かぶ西沙(せいさ)諸島の領有権をめぐり、中国とベトナムの間で緊張感が高まっている。

すでに中国は、この海域に石油掘削装置を設置。近づくベトナムの巡視船や漁船に放水、体当たりといった挑発行為を繰り返している。

世界有数の大国・中国と東南アジアの小国・ベトナムでは、一見、軍事力に雲泥の差があるようにも思える。だがベトナムは、“世界の番長”アメリカが、建国以来唯一の敗戦を喫した“最強ゲリラ軍団”であることを忘れてはならない。

第2次世界大戦後、ベトナムは南北に分断された。南ベトナムを支援していたアメリカは1965年、北ベトナムへの爆撃を開始し、ベトナム戦争は本格化。アメリカは最大50万人もの大軍を派遣し近代兵器と大量の弾薬を投入したが、北ベトナムは多大な犠牲を払いながらも1975年、南ベトナムの首都サイゴン(現ホーチミン市)を制し勝利した。

この戦争でアメリカ軍を苦しめたのが、ジャングルでのゲリラ戦だった。北ベトナム側の兵士は農民の中に姿を隠し偵察やテロ活動に従事したり、密林に潜み待ち伏せして急襲するなど、ゲリラ戦術でアメリカ兵たちを恐怖に陥れた。さらには木の枝や熱帯雨林特有の泥濘(でいねい)を用いてトラップを仕掛けるなど、ジャングルのすべてを武器として戦った。

アメリカだけではない。かつての宗主国フランスも、ベトナムが独立を求めて戦った第1次インドシナ戦争(1946年~1954年)で敗れている。このときもベトナム軍にとっては山岳地帯やジャングルでのゲリラ戦が有効打となった。

さらに、今回の当事者・中国も1979年の中越戦争ではベトナム領内に侵攻したものの、ベトナム戦争で実戦を積んだベトナム人民軍の精鋭の前に1ヵ月足らずで撤退を余儀なくされている。

ベトナム軍には実戦のノウハウも残っている

つまりアメリカ、フランス、中国という各大陸を代表する大国に連勝した国、それがベトナムなのだ。

世界の軍事事情に詳しいジャーナリストの世良光弘氏が次のように言う。

「昨年1月、日本の海上自衛隊の護衛艦に向けて中国のフリゲート艦がレーダーを照射するという事件がありましたが、もし応戦能力を持ったベトナム艦船があんなことをやられたら黙ってはおらず、武力衝突になる可能性も高いでしょう。ミサイル攻撃の照準を定めるためにレーダーを照射するという行為は、国際的なルールでいえば宣戦布告と同じですから」

たとえ海上でも、中国がベトナム軍をナメてかかったら痛い目に遭う。両国には、軍事衝突ではなく、平和的解決の道を探ってほしいものだ。

(取材/田中茂朗)

■週刊プレイボーイ24号「かつてアメリカに勝利した最強ゲリラ軍団が南シナ海で中国と一触即発! ベトナム軍は海でも強いのか!?」より