数字のフォントなど、パッと見はフランク・ミュラーだが、中央に「フランク三浦」の文字!

時計好きならずとも、どこかで見たことがあるだろう特徴的なデザイン。しかし、文字盤には日本語で「フランク三浦」。そして、1本数千円という激安価格……。なのに、単なる“ネタ商品”の枠に収まりきらないガチ人気を誇る話題の腕時計ブランド、その秘密に迫る!

■誰がなんと言おうと、オリジナルブランド!

「何これ? フランク・ミュラーのバッタもん?」と思ったそこのあなたにお伝えします。

違います。オリジナルブランドです。大切なことなのでもう一度言います。オリジナルブランドです! ただ、スイスの超高級腕時計ブランドであるフランク・ミュラーのデザインに、ちょっとだけ似たオリジナルブランドです!

まずはとりあえず見てほしい。価格は4000円程度のものが主流ながら、フランク・ミュラーそっくりの文字盤の中央に、堂々と「フランク三浦」と記したその姿! 威風堂々すぎる!

そして、裏ブタには「完全非防水」との刻印がされていたり、取扱説明書には「まれにちぢれ毛などの混入」が品質許容範囲内として記されていたり、時に「キムタク」(金宅)なる謎の人物とコラボしたりと、ともかく悪ふざけもすぎる!

なのに、なぜか“ネタ商品”の枠を超えた超人気ファッションアイテムとなっているのである!

2010年8月に誕生したフランク三浦は「銀座博品館」での販売初月でいきなり150本の販売を記録! また、ある時計雑誌の「読者が選ぶ30万円以下のナンバーワン時計」という企画ではまさかのぶっちぎり1位となり、「そこそこいい時計のランキングを決める」という編集部側の意図からズレたため、その企画自体がお蔵入りになったという。

あの作家が語る魅力とは

それだけではない。芸能人やスポーツ選手といった著名人たちがこぞって愛用しているのだ。

一昨年に自身が2000本安打を達成した際、記念モデルを特注で作って球団関係者全員に配ったという元ヤクルトスワローズの宮本慎也をはじめ、タレントの高田純次、元プロボクサーで俳優の赤井英和、歌舞伎役者の坂東亀三郎、『カイジ』シリーズでおなじみのマンガ家・福本伸行といった各界の人気者たちが、“ミウラー”(フランク三浦ファン)だと名乗りを上げているのだ。そして、腕に巻いたフランク三浦をバーンと見せつけた写真を、ブログなどにアップする人が多いのも特徴。購入直後にテンションがアガって自慢したくなるらしい! もちろん、愛好家は著名人にとどまらず、一般人によってツイッターでも大量に情報が拡散されているなど、街中大騒ぎなシロモノなのである。

■アウトロー作家、フランク三浦を語る

どうして、フランク三浦はここまで人々を魅了するのだろうか?「三浦のことなら、いっちょ噛(か)ませんかい!」と言うのは、『岸和田少年愚連隊』などでおなじみ、作家の中場利一(なかばりいち)さん!

「僕ね、これまでロレックスとかパネライの腕時計は知り合いにぎょうさんあげてきたけど、フランク三浦だけは絶対手放したくないねん。『くれ!』言われたら『買え!こんぐらい!』って言うてます。だって、そんくらい気楽ぅ~に買えるでしょ。その手軽感がまず好きやね。でも、だからって、ただの安モンって思うてるわけやない。むしろ、これのカッコよさがわからんヤツは、男として面白みとか深みがないんちゃうかなって思うわ。実際、ほんまもんのフランク・ミュラー持っとるヤツは『ニセモノやん!』なんて絶対言わへん。『何それ、おもろー!』って反応してくれんねん。ある種の“踏み絵”やな。このシャレに『粋やねぇ』と言えるのは大人の遊び心をわかってる証拠やし、男としての魅力もあると思うわ」

“フランク三浦さん”は女ウケも抜群!?

裏ブタにはモデル名と「非防水」の刻印が。防水仕様ではないことを堂々と宣言するのが三浦イズム! 裏ブタもむしろ見せたい!!

確かに、これを「パチモン」と切り捨てちゃう男は、器がちっちぇえ気がします!

「たまに、人から『それ、フランク・ミュラーでしょ?』って聞かれるけど、『アホか! 何がフランク・ミュラーや! フランク三浦さんや!』ってなぜか“さん”づけで反論してまうぐらいやから。堂々と胸張ってるいうか、風格があんねん。ほら、普通のパチモン時計なら他人から気づかれないようにするやん? けど、これは逆に気づかせたい。『おまえ、知らんの??』って言いたくなる。ちなみに僕が持ってんのは、『零号機(改)』と『弐号機(改)』で、カスタムすんのにもってこいなのも魅力。もともと車の改造も大好きなんやけど、フランク三浦はそれに通ずるもんを感じるよ。せやから、僕の『弐号機(改)』は改造してベルトをパネライのにしてある。要するにベルトのほうが高いねん(笑)」(中場氏)

男ウケはよさそうですが、女ウケはどうなんですか?

「当然ええよ。女が気づくようにわざと腕からチラチラ見せとくと、たいがい『フランク・ミュラー自慢してんの?』って言ってくんねん。そしたら。『残念でした、フランク三浦です~!』って言い返せば、『え~、何それ~! 見せて!』ってな具合に大盛り上がり間違いなしや! ナイスな時計やろ、ホンマ!」(中場氏)

■発案者に突撃! ユルすぎる開発秘話

このフランク三浦、いったい、どんな会社が作っているのか。

いてもたってもいられなくなり、週プレは大阪市天王寺区に本社のある腕時計メーカー、ディンクスに馳(は)せ参じてみました!

目指すは世界のトータルブランド!

発案者であり開発者でもある下部良貴社長! フランク三浦をつけてると女ウケがいいというのは本当ですか? あ、それとついでに誕生秘話とか教えてください!

「モテますね。キャバクラではもう鉄板ですよ。えっと、あとは誕生秘話ですか? ホンマに適当に作ったもんなんで、そんなにたいそうな話はないんですよ(笑)。最初は仕事終わりの雑談中に『フランク三浦』というネーミングを思いついて、これはおもろいと思って社内で提案してみたんです」

で、社員全員が大ウケ?

「いや~、みんな完全にドン引きでした(笑)。そもそも、ウチはガッチガチにマジメな腕時計を作ってる会社でして、今でも本業はそっちなんです。ですから、何か変なこと言い出したでって空気が満々で。私が『やろうや!』って言っても無視。でも、営業の人間がひとりだけ唯一ゲラゲラ爆笑してくれて、わかる人にはわかる、センスある人間にはウケるって確信できたんです」(下部社長)

じゃあ、半ば強引に商品化に踏み切ったんですね。

「そのとおりです。『これを買わへんヤツとは友達になられへん!』と捨てゼリフを吐いて商品化させました。ただ、取引先でもたいていは『ディンクスさん、何やってんの?』って真顔で返されてましたけど。でも、初めから儲けようと思って作ったわけでもなかったので、売れ残ったら知り合いに配って回ればええやんぐらいのノリでした(笑)。でも、とあるむっちゃオシャレなセレクトショップの代表の方にフランク三浦を見せたら、大ウケしてくれまして。不思議と社会的地位が高い方や高所得者の方ほど、食いついてきてくれるんですよ」(下部社長)

そんなこんなでジワジワと口コミで広まっていったと!

「おかげさまで、去年の4月には100万種類以上の商品を扱う楽天市場で、デイリーランキング1位を獲得したこともあるんですよ。あと、取扱店は現在100店舗以上あるんですが、なぜか居酒屋、焼き肉店、ラーメン店、理容店なんかからも置かせてくれと問い合わせがあったりして、確実に変な方向に向かってますね。とりあえず、今後もさまざまな企業や人物とコラボして世界のトータルブランドを目指します(笑)」(下部社長)

気になる本家の反応は……

現在の人気トップ5。(左から)「グレコローマンスタイルモデル・零号機(改)」「金宅モデル・四号機(改)」「マグナム・六号機(改)」「超一流店限定モデル・大型初号機(改)」「フランク三浦・初号機(改)」

ところで、本家フランク・ミュラーからのクレームは?

「何もないですね。まぁ、こっちもオリジナルブランドなんで(笑)」(下部社長)

なるほど! ミュラーのほうがパチモンだと!(ニヤニヤ)

「いやいやいやいや! フランク・ミュラーは本当の本当にリスペクトしてますよ! でも、ステージが違うというか、ウチはとことんチープにいくのがコンセプトなので……。だから、両方ホンモノなんですよ(笑)」(下部社長)

最後に、すごくいまさらですがフランク三浦って誰なんですか?

「え~と、この時計を作っている人物でして。人前に顔をほとんど出さない謎の天才時計師ですね。アマチュアレスリングのグレコローマンスタイルで400戦無敗を誇り、ギャンブル好きだけど座右の銘は『世界平和』という優しい男です」(下部社長)

今日は社内にいるんですか?

「いません」(下部社長)

では、どちらに?

「いえ、察してください……ファンタジーなんです」(下部社長)

あ、なるほど。はい、察します! その絶妙なバランス感でウケて、モテる! 違いのわかる男なら、10本ぐらい一気買いするのもアリかも!

(取材・文/昌谷大介、東 賢志[A4studio] 撮影/ヤナガワゴーッ)