大阪の豊中市が、若者らを対象に独自に行なっている就労支援事業に、全国から注目が集まっている。

その最大の特徴は、ハローワークを中心にした従来の仕組みでは就職が困難な人を対象に、入口(相談)から出口(職業紹介)までの一貫した支援を行なっている点。4人の専属“企業開拓員”が、民間企業の営業マンさながら新規求人などを獲得するために、地域の企業に営業をかけているのだ。

この“豊中モデル”構築の中心的な役割を果たしたのは、現在、豊中市・健康福祉部に所属する西岡正次(まさじ)氏(61歳)だ。

これまで、市には就労支援というくくりの業務や相談窓口のなかったが、2000年くらいから、ニートなど、ハローワークでは支援しきれない就職困難な若者が激増し、よりきめ細かな就労支援の仕組みを地域として作る必要があった。そこで西岡氏が最初に着手したのが、市が運営する無料職業紹介所の開設だった。

「ニートなどの就職困難な若者の“履歴書のブランク”は、企業の書類選考で落とされる原因になります。でも労働者の需給調整機関であるハローワークでは、求人企業への紹介状を発行するまでで、『あとは個人で頑張ってください』という仕組み。ニートだった人は、ハローワークの労働市場で圧倒的に不利なのです。

だから、自治体の無料職業紹介というもうひとつの“出口”を独自に作りました。厚労省に届け出をすれば、ほとんどコストをかけずに開設できます」(西岡氏)

実は、豊中市と同様、無料職業紹介所を持つ自治体の数は全国に177もある。しかし、一自治体当たりの月平均の就職者数はわずか3人(13年度実績)。一方、豊中市の無料職業紹介所は、年間1000人の求職者が訪れ、200人近くが就職に成功している。この差は、なんだろう。

“脱ハローワーク依存”の秘訣は?

「ほかの(自治体の)無料職業紹介所の多くは、求職者を生活保護受給者に限定するといった狭い職業紹介を行なっている場合が多い。無料職業紹介所をここまで組織的に運営しているのは全国でも少ないと思います。ハローワーク依存の自治体からすれば、無料職業紹介所を設置しても何をどうやれば就労支援をうまく進められるのかが見えないんですよ」(西岡氏)

無料職業紹介所を設置した後、西岡氏は前述の求人企業の開拓をスタートさせた。

「就職困難者に、就職するための基礎を教えても、彼らを受け入れてくれる“再就職市場”がなければ効果がありません。市役所の求人開拓員が足しげく地元の企業を訪問し、地域で再チャレンジできる場を地道に耕しました」(西岡氏)

とはいえ、新規営業開拓は生易しくないはず。助成金が受けられるメリット以外に、営業は苦手でもIT分野に長(た)けているといった人材の強みを伝え、企業のニーズに合わせた紹介をしたと西岡氏はいう。

「一般労働市場では、わずかな求人枠に100人以上の応募者が殺到し、中小企業の採用窓口は大混乱。そんななか、求職者の評価を含めたマッチング業務は採用担当者に委ねられるので、100人分の書類や面接にすべて対応しても、結局は求めているタイプの人材を見つけられないケースもある。もし採用が決まっても、『あとは企業と労働者の問題』となるので仕事に定着するための支援がない。そうした手間とコストを背負わされていることに、企業側も不満を持っていたわけです。

しかし、ウチの場合、企業側の採用ニーズに合う求職者を選び、紹介する形をとるので、採用の手間とコストを大幅に省けます。就職後は、専門家が就職困難者の受け入れ方について助言する従業員向けの研修を行なったり、企業と労働者双方からの“SOS”に対応する体制も作っています」

こうした点を売りに、求人企業を続々と開拓。現在、約800社の登録企業を抱え、すぐにでも取引できる状態にあるという。この求人データベースこそ、豊中市の最大の武器だ。

他の自立支援機関とも連携

「精神疾患と付き合いながら『週2、3日から仕事を始めたい』という求職者がいても、そんな求人は自力で見つけられません。そこで、『週40時間程度の仕事』という求人データがあれば『20時間ずつに割ってふたり紹介したい』と企業側に交渉する。就職困難者のニーズに合わせて柔軟に求人開拓することもできます」(西岡氏)

豊中市には、就職が難しい状況に陥った若者を支援する「地域若者サポートステーション事業(サポステ)」など若い世代の自立支援機関がほかにもあるが、それらとの連携も密に行なっている。同エリアでサポステと、引きこもり支援を行なうパーソナルサポートセンターを運営するNPOの関係者B氏がこう話す。

「豊中市の無料職業紹介所には就労支援コーディネーターがいますが、こちらには、臨床心理士や看護師、社会福祉士、発達障害支援員が所属し、相談者の症状やニーズに応じた専門家チームによる自立支援を行なっています。豊中市では就労困難の度合いをポイント制によって“見える化”しています。無料職業紹介所のコーディネーターが最初の相談の時点で、その人の健康状態や家族問題、生活習慣などの就労を阻害する要因を分析するんです。そこでポイントが一定の値を超えるとこちらに誘導される仕組みになっています」

来所した若者を訓練した後、就活という局面になればハローワークか、豊中市の無料職業紹介所と連携し、再チャレンジする機会を増やすことで内定率を高めている。そうしたサポートの効果もあって、ニートの若者を“ニート漬け”にする負のスパイラルは、ここ豊中市では生まれにくいわけだ。

(取材/興山英雄)

■週刊プレイボーイ24号「厚労省天下りに牛耳られる若者就労支援業界で孤軍奮闘! 『ニート支援のすごい町』が大阪にあった!!」より