ボールがゴールラインを割ったか否かをコンピューターが判断する「ゴールラインテクノロジー」や、フリーキック時の壁の位置を1分以内に消えるラインを引いて選手に知らせる「バニシングスプレー」の導入もあり、レフェリングの正確性に関しても注目が集まっていたブラジルW杯。

ところが、いざフタを開けてみると、肝心の人間の審判が下した判定が、やたらと目立つ結果になってしまっているのだ。大会序盤だけでも、

●ブラジルvsクロアチア ペナルティエリア内でのブラジル選手のダイブ気味の転倒を、クロアチアDFのファウルと見なし、ブラジルにPKを与えた。

●メキシコvsカメルーン コーナーキックからのメキシコの非の打ちどころのないゴールが、オフサイドと判定される。

●スペインvsオランダ オランダの3点目、ボールに触っていないオランダFWが相手GKにぶつかって動きを妨げていたにもかかわらず、ゴールが認められた。

●チリvsオーストラリア チリDFが相手の決定機をヒジ打ちで妨害したのに、イエローカードが出されたのは、被害者のオーストラリアFWだった。

など、枚挙にいとまがない。

なかでも、開幕戦でブラジルにPKを与えた日本の西村雄一主審は、世界各国のメディアやサッカー関係者からの批判にさらされた。しかも、その後、西村氏がリオデジャネイロの空港での移動中、クロアチアサポーターに発見され、威圧行為を受ける事態にまで発展したのだ。

疑惑判定、多発の原因は?

そもそも今大会はなぜ、過去のW杯に比べて“疑惑”の判定が多発しているのか。現地で取材中のベテランサッカージャーナリスト、後藤健生氏に聞いてみた。

「西村主審の判定は、個人的にはミスだったと思います。しかし、ルールの適用を間違えたり、明らかな反則を見落としたりといった致命的な誤りではありません。レフェリー本人にどう見えたかという不可抗力レベルの誤審で、サッカーでは当たり前に起こること。むしろ、あのPK場面以外では、彼はうまくゲームをコントロールしていたと評価しているんです。ほかの試合の例にしても、過去の大会に比べて主審のレベルが落ちているとか、おかしな判定の頻度が多すぎるといった印象はないですね。ここまでを見る限り、従来の大会並みに裁かれていると思います」

とはいえ、やはり思わず首をひねってしまうようなジャッジがいつも以上に目につく気がしてしまうのだが……。この疑問に対し、スポーツ紙デスクのA氏が答えてくれた。

「今回のブラジル大会から、日本ではW杯中継史上初めて、全試合を地上波で視聴できるようになりました。その分、審判のジャッジが画面に映る絶対数が増え、多くの人がそれを目にしていることが原因では? しかも、審判の判定は、微妙な場合ほど目立ってしまうものですから」

なるほど。そして、西村氏の判定がことさら叩かれたのは、開幕戦であったことのほかに、こんな背景もあるのだという。

「サッカーの先進地域は欧州と南米ですから、それ以外の国の審判が微妙な判定をすると『普段、レベルの低い試合しか裁いていないからだ』と、どうしても非難の対象になりやすいんです」(A氏)

W杯を裁く審判には、FIFA(国際サッカー連盟)から日当250ドル(約2万5500円)と、出場ボーナスとして2万ドル(約200万円)が支払われるという。でも、地球規模でつるし上げられ、挙句の果てに、生命の危険にまでさらされるリスクを考えたら、決して報酬に見合う仕事じゃない?