みなさんは「GU」というブランドにどんなイメージを持っているだろうか? 「ユニクロの廉価版で、デザインはあか抜けない……」というものだったら、それは数年前のイメージ。実は昨年の秋冬あたりから、「安価はそのままに、スタイリッシュかつ良品質なブランド」に生まれ変わっているのだ。

タレントをはじめ、メンズ、レディース問わず幅広くスタイリングをしているスタイリストの森田文菜(あやな)さんが語る。

「正直、私も以前は、わざわざGUで買うぐらいならユニクロに行ったほうがいいかなと思っていました。ただ、ウィメンズは数年前から徐々にデザイン性の高いものを増やしていて、それに追随するようにメンズも去年の秋冬ラインからかなりデザイン性を強化したようですね。ファッション誌からそのまま出てきたようなスタイリングを提案できていますし、今ではビームスやユナイテッドアローズと同じようなトレンド感がありますよ」

いったいGUに何が起こっているのか? 商品のデザインを担当するR&D部リーダーの矢治寿一さんに話を聞いた。

「GUは2009年に990円ジーンズで多くのお客さまに知っていただけたものの、その勢いも1年ほどで停滞してしまいました。そこでわれわれはあらためて自問したんです。ユニクロとの商品の差別化はできているのか? “ユニクロの廉価版”以外に発信できる個性はあるのか?と。そこで、ファッションに思いっきり振り切ろうという方針が打ち出されたんです。

まずはウィメンズのアイテムから徐々にファッション性を高めていき、メンズは満を持して昨年の秋冬から一気にガラリと変えました。まずは従来GUのラインとしてあった『トラッドカジュアル』のラインを、色や柄ものを中心にトレンドを強く意識してアップデート。そして新たなラインとしてモノトーン中心の『モードカジュアル』をつくり、2本柱として展開していったんです。さらに今年の秋冬からは“大人系”のライン(大型店のみで展開)も新たに投入し、3ラインで市場に仕掛ける予定です」

しかし、ファッションブランドにとってデザイン性を高めることは、同時にリスクも伴うのでは?

「おっしゃるとおり。デザイン性を高めると売れる服と売れない服の差が激しく出ますからね。今春出した3色展開のスウェットスタジャンは、腕部分が黒と紺のタイプは売れ行き好調でしたが、黄色のタイプは芳しくなかった。このように、作りすぎちゃったな~という商品が出てきやすくなってしまいますよね」(矢治氏)

今はコストよりもデザイン優先

つまり、毎期毎期、勝負師的な闘いを強いられるようになったということだ。

「だからといってカラーバリエーションでチャレンジカラーを打ち出すといった、攻めの姿勢をやめようとは思っていません。GUの服はなんといっても安いので、アイキャッチ的な見せ色を使用した服でも、お客さまは挑戦しやすいんだろうなと思ってるんですよ。1万円の服をワンシーズンに2回しか着なかったら後悔してしまいそうですが、1490円だったら試しに買ってみようかって気にもなりますよね。そういう気軽さがウチの提供価値だと思っていますので」(矢治氏)

もちろん安いだけがウリではない。たとえばプリントスウェットジップパーカ(1896円)には、上下どちらからも開けられるダブルジップが採用されている。また、ダブルガーゼチェックシャツ(1896円)は裏地を表地とは違うサイズのチェック柄にしている。こうしたさりげない部分にもきちんとこだわりを見せているのだ。

「当然、コストは上がってしまいますが、安いだけではないプラスアルファの要素は絶対に必要だと考えています。特にメンズの場合はディテールでオシャレを表現することが大切だと思うので、デザインに振るならば手を抜けないポイントなんです」(矢治氏)

前出の森田さんが語る。

「今でもH&Mやフォーエバー21のほうが攻めたデザインの服は多いですが、そういう最先端の服は相当オシャレな人でないと着こなせないことが多いですよね。一方のGUは決してベーシックなものばかりというわけではないし、むしろベーシックな服は少ないぐらい。にもかかわらず、いい意味で攻めすぎていないので間口が広いんです。要するに、一般的に“最先端”=“流行のド真ん中”ではないんですが、GUは潔く“最先端”は切り捨て、“流行のド真ん中”だけを追っている印象です」

数年前に一度入店したもののピンと来なかった人も、今のGUのラインナップを見たら、いい意味で驚くかもしれない。

(取材/昌谷大介、東 賢志[A4studio])