グーグルがメガネ型端末「グーグル・グラス」を開発したり、アマゾンが「Fire Phone」でスマホ市場に参入、さらには今年6月にソフトバンクが「ペッパー」なるヒト型ロボットを発表……。一見、“本業以外”への参入にも思える大手IT企業の最新動向は、いったい何を意味しているのか? てんでバラバラに見える、それぞれの背景には、共通するキーワードがあった。

それは「AI」。日本語でいうと「人工知能」だ。近年のインターネットの普及・発展により、AIの能力は爆発的な進歩を遂(と)げ、ビジネスの世界で開発合戦が行なわれている。しかし、それが何を目的としているのかは、いまいちわかりづらい。

ここで重要なのが、最新のAIは自らインターネットを通じて多くの情報を収集し、機械学習によって「統計・確率的」な分析の能力を上げていくということ。サイエンスライターの鹿野司(しかのつかさ)氏は、アップルのiPhoneに搭載されている音声認識ソフト「Siri」を例にこう解説する。

「AIの発達のカギは、どれだけ多くの情報をコンピューターが集められるかという点です。『Siri』はかなり騒音が激しい場所でも老若男女の声を聞き分けてくれますが、10年前の音声認識ソフトは若い男女の声くらいしか判別できなかったことを思えば、信じられない進歩。これはインターネットを通じてあらゆる世代の声のデータをコンピューターが大量に収集し、機械学習してきたからこそ可能になったものです」

こうしてAIは、多くのユーザーが使えば使うほど学習し、さらにその能力を向上させる。

「だからこそ、各社は世界中のネットにあふれている情報、特にユーザーの生の“個人情報”が欲しい。『ビッグデータ』と呼ばれるこうした情報を取り合うために、各社はいろいろなサービスを展開しているのです。検索エンジンでひとり勝ちしているグーグルに対抗して、マイクロソフトが『ビング』をつくったのも、ユーザーの情報を自社に集めたいという目的があるわけです」(鹿野氏)

ソフトバンクが「本気で打倒グーグル、アップル」?

このような視点で、あらためて冒頭に列挙した各社の動きを読んでみると、音声、検索行動、買い物の傾向……など、いずれも「ユーザー情報を吸い上げる」という“裏の目的”が見えてくる。

「植物が大きな木になると、日光を受ける表面積と吸収する二酸化炭素の量が増え、ますます巨木へと成長します。一方、その影響で近くの低い木には日光が当たらなくなり、枯れていってしまう。アメリカのIT産業では今、それと同じことが起きています」

そう話すのは、『クラウドからAIへ』(朝日新書)の著者で、KDDI総研リサーチフェローの小林雅一氏だ。

「例えば、世界で多くのユーザーが『Siri』を使うことになれば、その検索エンジンである『ビング』にも多くの情報が集積され、アップルやマイクロソフトのAIは大きく成長します。そうなると、グーグルは自社の検索エンジンを使用するユーザーが減少し、AIの成長度合いも低くなってしまう。各社は多くのアクセスを集めてAIによるユーザーターゲッティング(個々のユーザーの購買行動や嗜好などを把握すること)の精度を上げることで、莫大な広告収入を狙っており、こうしたユーザー情報の奪い合いが今、あらゆるところで起きているわけです」(小林氏)

そのため、アメリカの超巨大IT企業に対抗すべく、AI搭載のロボットをソフトバンクは市場に投入、本格的に殴り込みをかけるというワケ。孫正義社長が本気で「打倒グーグル、アップル」を目論んでいる表れといえるのだ。

だが、過熱する一方の“AI戦争”には当然、ユーザーのプライバシー問題が関わってくる。あらゆる場所で情報が収集され、さらに発達していくその激化の先にある未来は……?

(取材・文/世良光弘)

■週刊プレイボーイ29号「Google、Facebook、Apple、Amazon、Microsoft、そしてSoftBankの考えている商売は「AI」を知ればだいたいわかる!」より