問題のある児童・生徒をレベル1から5まで5段階に分け、レベル4以上の子供は隔離された「個別指導教室」送りに――。橋下徹大阪市長も推進する問題児更生プランが波紋を呼んでいる。

大阪市教育委員会が打ち出したプランを、橋下市長が了承したとの報道がなされたのは先月のこと。確かに、大阪市の教育現場は荒れ模様だ。文部科学省の調査によれば、2012年度に全国の小中学校で発生した暴力行為の件数は生徒1000人当たり平均4.1件。しかし、大阪市はその倍以上の9.5件。堂々の全国トップである。

賛否両論あるものの、個別指導にはその生徒に「問題児」のレッテルを貼り、単に排除するだけの結果になりかねない。だが、市教委指導部の担当者はこう反論する。

「どうにも誤解があるようです。今回の一件が大きく報じられたのは、『問題生徒を5段階にレベル分けし、レベル4と5の生徒を個別指導教室に隔離する』とセンセーショナルに報道されたことが大きい。このレベル分けは桜宮高校体罰事件を受け、昨年9月に市教委が定めた『体罰・暴力行為を許さない開かれた学校づくりのために』という指針で示したものです。

でも、私たちは今回の論議のなかで、この指針についてはひと言も触れていません。なのに、どうしてこんな報道になるのか。そもそも、レベル4と5は凶器所持、強盗など、れっきとした犯罪行為。個別指導うんぬんではなく、警察と連携して対処すべきケースです。市教委の意図はそうした犯罪行為レベル以前の問題行為について、学校教育法第35条(および第49条)にある『出席停止命令』をスムーズに出したいだけなんです」

出席停止命令とは簡潔に説明すると、「ほかの生徒、教員、学校施設などに苦痛や損害を与え、授業などの教育活動に妨げがある場合、その生徒に出席の停止を命じる措置」で、「その目的は学校の秩序を維持することにあり、問題生徒への懲戒を意味しない」というものらしい。

問題生徒を隔離・排除する意図はなし?

市教委指導部の担当者が続ける。

「出席停止になると、その生徒を保護者が監督し、学校は自宅で学べるように個別の指導計画を立て、専用のプリントなどを作成することになっています。つまり、生徒に早期に立ち直ってもらい、同時にほかの生徒の学ぶ権利を守るための措置です。

ただ、保護者も教師も日々の仕事で忙しく、市ではその必要性を感じながらも過去5年間で一件の出席停止措置も出せませんでした。今回の個別指導教室のアイデアは多忙な保護者や教師に代わり、専門のスタッフが個別指導に当たるなど、スムーズに出席停止ができる環境を整えようというものなのです」

つまり、当初から生徒をレベル分けし、隔離・排除するような意図は市教委側になかったということらしい。誤報による過剰反応がここまで騒ぎを大きくさせてしまったということか。じゃあ、市教委の方針は何も問題なし?

来春の統一地方選挙に向け、キャンペーン?

だが、大阪市の教育現場を取材している地元紙記者はこう指摘する。

「教師のさじ加減ひとつで生徒が出席停止にされてしまう可能性など、運用面の課題や懸念がありますし、それとは別に橋下市長の人気取りに利用される恐れもある」

橋下市長の人気取り?

「維新の分裂や大阪都構想の頓挫で求心力の低下している橋下市長にとって、問題児の個別指導というテーマはすごく“おいしい”。賛否が真っぷたつに割れるテーマを持ち出し、反対派をたたくことでメディアの注目を集め、発言力を高めるのは橋下市長の得意技。賛否が分かれるほど、存在感が際立つことになる。だからこそ、このアイデアに大乗り気なのではないでしょうか」

橋下市長は統一地方選挙のある来春にも個別指導教室をスタートさせる意向だという。

個別指導教室の賛否はさておき、その議論が一政党、一政治家の人気取りに利用されるなんてことだけはなしにすべきだろう。

(取材/ボールルーム)

■週刊プレイボーイ29号「大阪市『問題児隔離施設』計画のウラ事情!」より