ブラジルW杯のグループリーグの観戦を終え、いったん日本に戻ってきている。

今年に入ってからもう何度も往復しているけど、あらためてブラジルは遠いね。北米経由でもヨーロッパ経由でも中東経由でも、だいたい30時間はかかる。

また、ブラジルに着いてからも、国土が広いから移動が大変。飛行機の遅延は当たり前で、90分間の試合を観るために、半日以上かかることもある。そして、試合会場によって気候がまったく違う。暑い街、暑くて雨が多い街、寒い街と、同じ国なのに違う国みたい。選手はもちろん、現地を訪れたサポーターにとっても大変な環境だよ。どの空港の待合スペースにも、疲れ切った顔をして寝ているユニフォーム姿の人がたくさんいたね。

その一方で、開幕前に懸念されていたデモやスト、スタジアム建設工事の遅れ、治安の悪さなどの影響は、フタを開けてみれば、どうということはなかった。デモやストはほとんど見かけなかったし、建設工事の遅れが問題視されていたスタジアムでも、試合はなんの問題もなく開催された。盗難被害に遭(あ)った日本人もいるようだけど、件数は過去の大会と大差ないはず。あらためて日本のメディアが事前に恐怖心を煽(あお)りすぎだったように思う。

街中の雰囲気はW杯一色という感じではなかった。ブラジル代表の試合がある日を除けば、街がお祭りムードになることはない。観戦チケットの価格が高すぎたのか、スタジアムにも空席のある試合が目立った。日本と同グループのコートジボワールとギリシャの試合は、地元の子供たちがたくさん無料招待されていたね。

ブラジルは国民全員が評論家みたいなもの

とはいえ、そこはサッカー王国ブラジル。テレビをつければ、試合中継以外にも朝から晩までW杯関連番組が延々と流れていた。それをカフェ、レストラン、空港など、ありとあらゆる場所で、多くの人がクギづけになって観ている。飛行機の機内でも試合の生中継が観られるのには驚いたね。

ブラジル代表の試合がある日は、役所も会社も午前中で仕事はおしまい。昼には帰宅ラッシュによる大渋滞が起こる。そして、試合中は街中から人の姿が消えてしまう。まるでゴーストタウンだよ。でも、得点が入ると、あちこちから花火の音やクルマのクラクションの音が聞こえてくる。

そして、試合後は至るところで真剣なサッカー談議が繰り広げられる。何しろ国民全員が評論家みたいなものだからね。「あいつはもう使うな」「あの采配はおかしい」とか、話す内容も手厳しい。もちろん、テレビのサッカー番組もそれは同じで、よかったときはしっかりホメて、悪かったときは若い女性アナウンサーまでダメ出しをする。そこはハッキリしているね。

そんな国から戻ってきたばかりだっただけに、日本代表の帰国時、成田空港で大勢のファンが温かく出迎えていたのは不思議だったね。勝っても負けても関係ない。写真を撮ってキャーキャー騒いでいるだけ。あれじゃ、サッカー選手じゃなくてアイドルだ。3連敗した1998年フランスW杯のときに城(彰二)が水をかけられたのが懐かしいよ。

日本には素晴らしいところがたくさんあるし、なんでもかんでもブラジルを礼賛(らいさん)するつもりはないけど、ことサッカーを取り巻く環境に関しては、差はまったく縮まっていないね。

(構成/渡辺達也)