「透視や予感は、無意識の状態でこそ発揮され、論理的な思考を働かせているときには現れない」と語る石川幹人氏

幽霊、金縛り、超能力――。世の中でまことしやかに囁(ささや)かれる超常現象の数々を、科学者が真っ向から論じたらどうなるか?

 『「超常現象」を本気で科学する』は決してオカルトを肯定する視点に立つものではない。しかし、だからこそ現代科学の先端と、そこからはみ出す不思議な事象の本質を考える、よきヒントで満たされている。超心理学研究の第一人者である著者の石川幹人氏に、科学とオカルトの境目について聞いてみよう。

―まず、石川先生の専門分野である「超心理学」と、「オカルト」との違いはなんでしょう?

石川 オカルトという言葉は、“隠されたもの”を意味する「occulta」というラテン語を語源としています。つまり、オープンにされていない原理によって何かを主張するものを指しているのです。わかりやすいオカルトの例は「占い」でしょう。手相占いでは、生命線が長い人は長生きだとされていますが、その根拠は明らかにされていませんから、これはオカルトの範疇(はんちゅう)なのです。

逆に、根拠が明確なものが科学です。よく、人さし指より薬指が長い人は男性ホルモンが強いといわれますが、これは実は、人体構造的にも統計的にも実証されている科学的成果なんです。

「超心理学」とは、皆さんが不思議だと感じる事象について、科学の手法でアプローチしていく学問です。

―心理学の中の一分野ととらえていいのでしょうか?

石川 そうです。超心理学は心理学とほぼ同時期に誕生した、伝統的な学問です。ただ、テレパシーや透視といったテーマを扱うことが多いので、一般の人にはどうしてもオカルトと混同されてしまいがちですけど。

科学の最先端は常にグレー

―先生は本書の中で、「オカルト信奉者ではない」と明言されていますが、この分野に関心を持ったきっかけは?

石川 私がもともと興味を持っていたのはマジックなんです。自分でいろんなマジックを研究し、実演していたのですが、高校時代にユリ・ゲラーが来日したことで、超能力ブームがやって来ました。彼が見せる力の一部はマジックだったと私は断言できますが、それを差し引いても何かおかしな現象が起きているように見える。その正体はいったいなんだろうと関心を持ったことが、超心理学を学ぶきっかけでした。

現在も「ユリ・ゲラーは本物だ」という研究者もいますが、私自身は残念ながら実験の機会に恵まれなかったので、“本物”か“ニセ物”かは判断できません。

―しかし先生は、ユリ・ゲラー効果で名乗りを上げた超能力少年(当時)の実験には直接立ち会われていますよね。先生のポケットの中にあったスプーンが勝手にねじれたという、本書で書かれているエピソードは衝撃的でしたが……。

石川 そうですね、私の体験の中ではそれが最もセンセーショナルでした。これは、私を含めたその場の数名が集団催眠にかけられたのでもないかぎり、現代科学とは折り合えない現象です。

しかし、なぜそういう現象が起きたのかを説明できないのに主張すると、単なる「オカルト」になってしまうんですよ。学問の俎上(そじょう)に載せるためには、科学的な実験によるデータが提示できなければなりません。これが難しいところです。

―うーん、科学者が「現代科学と折り合わない現象」と認識しているのに認められないとは、なんだか矛盾を感じますね。

石川 だから私は、逆方向からのキャンペーンを張っているんです。科学が確実に主張できることは、実はごく一部にすぎないという現実を、まずは多くの人に知ってもらおうと。科学の最先端は常にグレーで、いろんな仮説がせめぎ合っている状態です。

言い換えれば、科学者に「この現象はなんですか?」と聞いたところで、常に単刀直入な回答が得られると思ってはいけないということです。

動物が持つ「原始的な勘」と同じ?

―ユリ・ゲラー来日から今年で40年。この間、超能力に関する研究で明確な成果が得られたというニュースは耳にしませんが、実際のところはいかがですか?

石川 例えば、90年代以降に目覚ましい成果を挙げているのは、「予感実験」です。これは被験者に心理的興奮を測るセンサーを取りつけ、猛獣や災害現場といった「恐怖を煽(あお)る画像」と、自然の風景などの「平穏な画像」をランダムに見せ、“手に汗を握る状態”を検出するものです。

前者の画像を見せた場合は興奮度が上がり、後者では下がるわけですが、表示はランダムであるにもかかわらず、「恐怖を煽る画像」が表示される3秒ほど前に、興奮度が上がることがデータで確認されています。つまり被験者は、将来表示される画像を予感しているわけです。これはその後の追試でも肯定されている、確実に存在する現象なんですよ。

―つまり、「予感」は科学で証明されたということですよね。

石川 メカニズムは不明ですが、そういった現象があることは示されています。また、かつての透視実験では、「ESPカード」と呼ばれる、○や□、△といった図形を記したカードが使用されました。

これはなるべく感情を排除して実験を行なうための配慮でしたが、最近はむしろ、感情や本能に訴えかけたほうが成功率は上がるというデータが得られています。例えば、男性被験者であれば、無機的な記号よりも過激なヌード写真を使用したほうが、透視や予感実験の精度がアップするのです。

―つまり、より能動的に“見たい”と思わせたほうが感覚は冴(さ)える、と。

石川 そうですね。これまでの実験から、こうした力は無意識の状態でこそ発揮されるもので、論理的な思考を働かせているときには現れないことがわかっています。いわば、動物が持っている原始的な勘と同じものなのでしょう。だから、性的欲求や生死に関わる危機感に働きかけたケースが、最も数字に現れやすいわけです。

超感覚を鍛えて仕事に生かせるか?

―こうしてお話を伺っていると、超心理学研究は着々と人間の持つ未知の能力に迫りつつあるように思えますね。

石川 ただ、誤解しないでほしいのは、あくまでも“現代科学で説明できないなんらかの現象”が確認されているのにすぎず、明確ではあっても数値的にはわずかなものです。

世の中には「勘のいい人」というのがいますが、超心理学者はそれがどういう状態や環境で発揮されやすいのかを究明しようとしているわけです。

―では、僕らがそうした感覚を鍛えることで、普段の生活や仕事に生かすことはできるでしょうか?

石川 鍛えることはできなくても、もともと持っている能力を発揮しやすくする方法は知られています。例えば透視実験にしても、実験がマンネリになってくると、途端に成功率が落ちることが確認されています。逆に、何か新しい実験を始めると、急に成功率が向上するのです。

その意味では、仕事でもなんでも、あまり日常のルーティンワークに埋没することなく、常に新しいことに取り組もうとする人は、こうした超感覚が研ぎ澄まされて、仕事でも成功しやすいといえるでしょうね。

(構成/友清 哲 撮影/村上宗一郎)

●石川幹人(いしかわ・まさと)1959年生まれ、東京都出身。松下電器産業(現パナソニック)で人工知能などの研究に従事した後、明治大学情報コミュニケーション学部教授に。認知情報論、科学基礎論を専門とする。『だまされ上手が生き残る 入門! 進化心理学』が7月18日刊行予定、ほか著書多数

■『「超常現象」を本気で科学する』 新潮新書 700円+税 多くの人々の関心を集めながらも、「非科学的」「オカルト」といった言葉で片づけられてきた超常現象の領域に、超心理学研究の第一人者が挑む。“異端の科学”の最先端を案内しながら、「何がどこまで解明できたのか?」を示し科学の本質に迫る、理論的啓蒙書