レベルファイブの日野晃博社長。現役バリバリのゲームク リエイターでもあり、代表作は『レイトン教授』シリーズ、『イナズマイレブン』シリーズ、 『二ノ国』など

ゲーム、アニメ、オモチャで小学生を中心に人気を集める『妖怪ウォッチ』が社会現象となっている。“妖怪”を題材にしたコンテンツが、なぜ今、大ブレイクしていのか?

『妖怪ウォッチ』とは、妖怪が見えるようになる“妖怪ウォッチ”を装着した主人公が、出会ったり戦ったりした妖怪たちを次々と友達(パーティー)にしていく、ニンテンドー3DS用のゲームだ。昨年の7月に発売以降、100万本以上売り上げる大ヒットを記録。7月10日には『妖怪ウォッチ2 元祖/本家』が発売され、どの店舗でも予約が取れない状況となっている。

今年1月から始まったテレビアニメもブームを後押しし、エンディングテーマだった『ようかい体操第一』の歌詞&振り付けを完コピして踊ることが子供たちの間で大流行。腕時計型オモチャ「DX妖怪ウォッチ」は品切れ店が続出し、Amazonや楽天市場では、定価3456円の2倍から3倍の値段で売られている。

「弊社には、『ドラえもん』のように子供たちから長く愛されるコンテンツをつくり上げたいという目標がありまして、『妖怪ウォッチ』はその階段を上り始めることができているのかなという感触があります。ただ、ここまでヒットしちゃうものなの?と、正直、僕自身もびっくりしています(笑)」

そう語るのは、仕掛け人であり、開発会社であるレベルファイブ代表取締役社長・日野晃博氏だ。レベルファイブはゲーム業界でも“風雲児”として知られる若いメーカー。自身はこの大ヒットの要因をどう見ているのか。

“何をやっても普通の子”が共感された?

「『妖怪ウォッチ』は子供たちに強く共感してもらえるように、今の小学生たちの実情を徹底的にリサーチした上で、キャラクターや世界観を作り込んだ作品。例えば、主人公やその友達のキャラ設定は、藤子不二雄作品のようなある種のフォーマットにのっとったものにしているんですが、主人公の男の子はのび太のように“何をやってもダメな子”ではなく、運動も勉強も“何をやっても普通の子”として描いています。その個性の薄さが、現代の子供たちに共感してもらえると考えたからです。また、ガキ大将ポジションの子もいますが、ジャイアンほどの絶対権力者でもないし弱みもあるという描き方をしているんですよ」

第1弾発売から約1年で『2』を発売するのも、「自信があったので当初から続編発売を前提でスタートさせていた」(日野氏)からこそのリリーススピード。ただ、同社が世界的大ヒットを連発させた『レイトン教授』『イナズマイレブン』シリーズでも行なってきたお得意の戦略でもある。その2作の人気が下降線をたどり、不安もあったのでは?

「不安はそれほどありませんでしたが、反省はしました。実は以前は『レイトン教授』も『イナズマイレブン』も、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』のように半永久的に続けていけるシリーズにしたかったし、そうできると考えていました。でもその認識が甘かったのかなと。新作を出しても、毎回毎回新しい驚きと新しい楽しさを提供できていたかと聞かれたら、今思うと“NO”と言わざるを得ない部分がありました。そのため、離れていってしまったファンの方もいたんだと思います」

つまり、人気シリーズのコンテンツ寿命を、少しずつ消費してしまっていたということか。

「会社の売り上げも、そうやってリリースしていたシリーズに依存していた部分が大きかったので、収益が少しずつ落ちていくという状況だったのも事実です。ですから、その状況を打破するために、『妖怪ウォッチ2』は新しい“遊び”をたくさん詰め込んでいるんですよ。特に通信機能を使った多人数プレイモードは、前作にない新鮮な遊びを提供できているという自負があります」

全身全霊をかけるクリエイターの矜持(きょうじ)

ということは、『妖怪ウォッチ2』も、大ヒットさせる自信が相当あると?

「そうですねえ……面白いものを作った自信はありますが、ヒットするかどうかはこれからですね(笑)。言い訳ではなく、社会の大きな流れには作り手が関与できない不確定要素が多分にあり、タイミングやその他のいろいろな要素の歯車が噛み合って初めて大ヒットとなる。つまり、売れるかどうかはある程度運任せになってしまうんですよ。

もちろん、妥協して発売した作品は運どうこう以前に売れませんので、最大限に努力した作品を世に送り出すことが、大当たりのある宝くじを引く権利を得る最低条件という感覚。だから、僕は今まで手がけてきた全作品に、同じように全身全霊で力を注ぎ、100万本売れて国民的ゲームになれる要素を詰め込んできたつもりなんです。そのなかで思ったように販売本数が伸びなかった作品もあれば、『妖怪ウォッチ』のようにヒットしてくれた作品もあるということなんですよね」

「日本のゲーム業界は死んだ」と評する声もある中、再生に不可欠な“本気”が彼にはある。そんなクリエイターとしての矜持(きょうじ)があるからこそ、『妖怪ウォッチ』は“運よく”ブームになるべくしてなった作品に仕立て上げられたのだ。

(取材・文/昌谷大介、千葉雄樹(A4studio) 撮影/下城英悟)

■週刊プレイボーイ30号「『妖怪ウォッチ』が100万本を突破する大ヒット!驚異の妖怪ブームの裏!」より