トヨタが、1980年代から90年代にかけて人気を博したスポーツクーペ「スープラ」を2、3年以内に復活させる、と複数のメディアが報じた。しかも、そのプラットフォーム(車体の基本設計部=シャーシ)は、なんとBMWのオープンカー「Z4」の次期モデルと共通化させるのだという。

トヨタとBMWは昨年、包括提携契約を結んでいる。その産物として商品化される第1号が、新生スープラ&次期Z4になるというわけだ。プラットフォームこそ共通だが、ボディーデザインについては両社が独自に行ない、それぞれのブランドで発売される。

2社間の包括提携契約が土台にあっての合作、という背景はわかる。だが、トヨタはなぜ久々に復活させる看板モデルの開発にあたり、BMWとの協業という道を選んだのだろう。自動車ライターの今尾直樹氏はこう推理する。

「トヨタの豊田章男社長は、日本の自動車メーカーのトップには珍しい、根っからのカーマニア。常々、『もっと日本にクルマ好きを増やしたい』と口にしている彼は、自社のイメージリーダーとなれる高性能スポーツカー、つまり新生スープラの必要性を感じたのでしょう。

しかし、先代スープラの生産終了からかなり年数がたっているので、今のトヨタにはハイパフォーマンス車を効率的に開発するノウハウが残っていない。そこでなるべく短期間、低コストでスープラを開発するため、提携関係があり、すでにスポーツカーをラインアップに持っているBMWの力を借りることにしたのだと、私は見ます。実質的にスバルがプラットフォーム設計を担当した、『86』(ハチロク)のようにね」

協業というより、BMWにプラットフォーム開発を委託する形になりそう、というわけだ。

確かにその方法だと、トヨタは手っ取り早くスープラを発売できる。しかも、BMWの技術が注入されたという“箔(はく)”付きで。

プラットフォーム共通化のメリットは?

一方、BMWにとって、スープラとZ4のプラットフォーム共通化は、どんなメリットがあるのか。

「なんといっても、トヨタが費用を支払ってくれるわけですから、BMWとしては格安でZ4を開発できます」(今尾氏)

また、スープラとプラットフォーム部品が同じなので、生産コストも下げられる。

そうすると、両車はエンジンも同じ? でも、仮にZ4にトヨタのエンジンが載ることになったりしたら、BMWのブランドイメージ低下につながるんじゃ……。

「BMWの命は、何をおいても上質なエンジンですから、次期Z4がトヨタのエンジンを採用するとは思えません。Z4にはBMWの、スープラにはトヨタのエンジンが載るでしょう。トヨタにしても、BMWのエンジンを使ったりしたら販売価格が跳ね上がり、限られた人しか買えないクルマになってしまいます」(今尾氏)

そして前述のとおり、ボディーはそれぞれ独自のデザイン。結果として、BMWはBMWらしい、トヨタはトヨタの求める新型スポーツカーを手にできるのだから、まさにウィン・ウィン?

「でも、BMWってスポーティなセダンやクーペを作らせたら天下一品なのですが、純粋なスポーツカーとなると、実はさほど得意ではない。現行のZ4にしても、イマイチ軽快さがありませんしね。そんなメーカーにスープラのプラットフォーム開発を丸投げすることが、果たしてトヨタにとって得策なのかどうか」(今尾氏)

“トヨタの顔”に恥じないスポーツカーを作りたいのなら、資金と時間と人を費やしてでも自前でやったほうが、得られるものは大きいような気が……。