ブラジルW杯はドイツの4度目の優勝で終わった。

ドイツの優勝は妥当だね。突出した選手はGKノイアーくらいで、攻撃陣にスーパースターはいない。でも、ベテランから若手までバランスがよく、層も厚い。当たり負けしないフィジカル、走り負けないスタミナをベースに、各選手がしっかりと連動する。まさに全員攻撃、全員守備。ボールを奪ってからの速攻は鋭いし、そうかと思えば、中盤でじっくりとパスをつなぐ遅攻もお手の物。実に組織力の高いチームだった。

逆にアルゼンチンは、良くも悪くもメッシ頼みのチーム。しっかり守って、カウンターからメッシの個人技で勝負する。各選手がしっかりと自分の役割を果たして勝ち上がり、決勝でも何度か決定機をつくったけど、結局、決めきれなかった。メッシは常に相手に徹底マークされ、グループリーグこそ3試合で4得点を挙げたものの、決勝トーナメント以降の4試合では無得点に終わっている。

ひとりのスターに頼るサッカーでは、もうW杯は勝てないよということを象徴する結果になったのかなと思う。ネイマールに頼ったブラジル、クリスティアーノ・ロナウドに頼ったポルトガルもそう。ウルグアイもスアレスが出場停止になってからは普通のチームになってしまった。もろさが出たね。

ちなみに、僕は準決勝を前に再びブラジルに行っていたんだけど、率直に、決勝の舞台で母国の代表を見られなかったのは残念だった。ドイツに1-7で大敗した「ミネイランの惨劇」は、サンパウロ市内のレストランでテレビ観戦。スポーツバーみたいな雰囲気で、前半はブラジルが失点するたびに、「何やってんだよ」「ちゃんとやれ」って大きな声が上がっていたけど、後半は誰も試合を見ていなかった。

決勝は、ほとんどのブラジル人がドイツを応援

7失点はブラジル代表の歴史の中でも初めてのこと。いくらドイツが強くても、それほどの大量失点は普通考えられない。地元開催の大会で絶対に勝たなければいけないという使命感、エースのネイマール不在という不安を抱えるなかで先制点を許し、選手が混乱してしまったね。慌てて攻め急いではカウンターを食らって失点し、完全に集中力を切らしてしまった。

翌日以降、街中からは黄色が消えた。ブラジル代表のユニフォームを着ている人をまったく見かけない。決勝はスタジアムで観戦したんだけど、準決勝まではブラジル以外の試合でも黄色に染まっていたスタンドも、すっかり普通に戻っていた。売店に売れ残っていた大量のブラジル代表ユニフォームが切なかったよ。

決勝は、ほとんどのブラジル人がドイツを応援した。ただ、実は対戦カード決定後当初は、どちらを応援するかで意見が割れていたんだ。「ドイツが優勝すると4度目で、ブラジルの5度に迫るからいやだ」「隣国アルゼンチンに聖地マラカナン(決勝の試合会場)でデカい顔をされたくない」とね。

ところが、あるテレビ番組でアルゼンチンサポーターがブラジルの7失点をバカにするインタビュー映像が流されたことをきっかけに、「アルゼンチン憎し」でみんなまとまった。「マラカナンでアルゼンチンに優勝されたら、“二日酔い”が倍になる」ってね。

ただ、決勝が終わった直後、スタンドで「ブラジルは5回優勝。アルゼンチンは2回」と歌っている人がいたけど、あれはむなしい光景だったね。

(構成/渡辺達也)