関東地方も「梅雨明け宣言」が出され、ついに夏本番を迎えた日本列島。そんなときに気をつけたいのは「熱中症」だが、もっと怖い障害が起こり得ることをご存知だろうか。

それが「夏血栓(なつけっせん)」だ。つまり、夏に起こりやすい血栓だから「夏血栓」。

まずは血栓のメカニズムについて、池袋大谷クリニック院長の大谷義夫医師に説明してもらおう。具体的には、夏に起こる心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳梗塞(のうこうそく)、肺血栓塞栓(そくせん)症などだというが、

「血栓は、イメージとしては水道管などの曲がっている部分やふた股などに分かれている部分にさびができたりゴミがたまったりするのと同じです。血管の中に、血液に含まれるタンパク質や血小板などがたまってしまうのが血栓です。これは誰にでも起こり得ます。

そして、この血栓の塊がはがれて血管の中を流れ、脳の細い血管に詰まって、そこより先の細胞が壊死(えし)すれば脳梗塞になります。心臓に詰まれば心筋梗塞になり、肺に詰まれば肺血栓塞栓症になるわけです」

血栓ができやすい要因は大きく分けて3つあると大谷医師は言う。

【1:血管が障害を起こしている】高血圧や脂質異常症、糖尿病などによって、血管の内側が傷ついているときなど。

【2:血流が悪い】飛行機やクルマなどの狭い座席に長時間同じ姿勢で座ったりして、血管が圧迫されているときなど。

【3:ドロドロ血】脂質異常症や脱水症状などで、血液の成分がドロドロになっているときなど。

なぜ夏に血栓が起こりやすいのか?

そんな血栓が夏に起こりやすいのは、熱中症と同様に、脱水症状が関係している。夏血栓の予防を呼びかけている日本ナットウキナーゼ協会の原弘之氏が語る。

「冬の血栓症は暖かい部屋から急に寒い室外に出たときなど、急激に血管が収縮し、血流が早くなって血栓がはがれ、脳や心臓の血管に詰まることが多いといいます。一方、夏血栓は脱水症状などで血がドロドロになることが主な要因です」

もちろん、ドロドロ血に加え、長時間同じ姿勢をして血流が悪くなれば危険度はさらに上がる

「トラックの運転手の方やデスクワークの方など、何時間も同じ姿勢でいると肺血栓塞栓症を発症しやすくなります」(前出・大谷医師)

また、外回りでなくデスクワークだからといって安心していると、エアコンの風のために汗をかいた自覚がなくても、知らないうちに脱水症状になっていることもある。

つまり、夏の暑い日に急に気分が悪くなれば、まず熱中症を疑いたくなるが、実は夏血栓の場合もある、ということだ。しかも、そこで間違った処置をしてしまうと命を落とす危険が一気に増す。

「例えば、急性肺血栓塞栓症と診断が確定され治療した場合の死亡率は2%から8%ですが、夏血栓とわからず適切な治療が行なわれなかった場合の死亡率は30%に上ります」(大谷医師)

夏血栓の予防法とは?

やっかいなのが、素人には自分が熱中症なのか、夏血栓なのか判断が難しいこと。

「熱中症の場合は、体を冷やすなどの処置をしますが、脳梗塞などの場合は血栓を溶かす作業をしなくてはなりません。判断を間違えたために障害が残ったという症例もあるようです」(前出・原氏)

そのため、熱中症だと思って日陰で休んでいたら、突然、死んでしまうという恐れも……。

「急性肺血栓塞栓症の死亡例の40%が発症1時間以内の突然死です。症状は発熱、冷や汗、動悸(どうき)、咳、呼吸困難、胸の痛み、血痰など。もし苦しいと感じたら、自分で判断しないで早めに病院で検査を受けたほうがいいでしょう」(大谷医師)

では最後に、夏血栓の予防法、ズバリ教えてください!

日頃からドロドロ血にならない食べ物を取るのも大切です。例えば、納豆に含まれているナットウキナーゼは血栓を予防する効果があります」(原氏)

「とにかく同じ姿勢でいないこと。そして脱水症状にならないようにこまめに水分補給をすることです」(大谷医師)

(取材/村上隆保)

■週刊プレイボーイ32号「発症1時間以内に突然死も……32℃を超えたら『夏血栓』を警戒せよ!」より(本誌では、血液をサラサラに改善する料理レシピも紹介!)