W杯の決勝を観戦した後、ブラジルで1週間ほどのんびり過ごしてきた。

その間の現地のテレビや新聞は、やはり惨敗に終わったブラジル代表の話題で持ちきりだったね。監督、選手、協会への批判はもちろん、権威を失墜した代表チームの再建には何が必要か、連日、大討論会が行なわれていた。

例えば、なかなか得点を決められず、敗退前からブーイングを受けていたフレッジは「セレソン(ブラジル代表)史上最低のFW」と集中砲火を受けていたし、故障離脱前まで結果を残していたエースのネイマールでさえ、「欧州(バルセロナ)移籍以降は練習不足なのか、全然レベルアップしていない」と厳しい指摘をされていた。

ドイツの組織的なサッカーを見習うべきだとして、一度、外国人に監督を任せてはどうかという声もけっこう聞かれたね。実現の可能性はともかく、グアルディオラ(スペイン人。現バイエルン・ミュンヘン監督)という具体的な名前も挙がっていた。

誰もがブラジル代表再建のために、良く言えばアイデアを出し合い、悪く言えば好き勝手に意見を言っている状態だ。

そうしたなか、スコラリ監督、ブラジルサッカー協会の強化部門の担当者らは全員辞任。かつてC大阪でプレーしたこともあるジルマールが新しい強化責任者に就任し、すぐにドゥンガを後任監督に選んだ。惨敗を真摯(しんし)に反省し、責任を取るべき人が責任を取った上で、早々と4年後に向けての再スタートを切っているんだ。

代表チームを取り巻く環境が変わらなければ、今後も何も変わらない

そんな国から戻ってきただけに、今の日本の状況には違和感を覚える。W杯であんなに悔しい気持ちを味わったのに、みんなもう忘れてしまったのかな。メディアも敗因の検証をすることなく、新監督候補のアギレの話題ばかり取り上げている。

振り返れば、2006年ドイツW杯のときも似たような感じだった。1勝もできない惨敗だったのに、帰国会見での川淵三郎日本サッカー協会会長(当時)による、「(次の監督は)オシムって言っちゃったね」発言で、すべてがうやむやになってしまった。

あれから8年、また同じことを繰り返している。いや、帰国会見の場を設けた分、むしろ8年前のほうがマシだったかもしれない。

当然、選手たちは自分たちの力が足りなかったと反省しているはず。でも、それだけじゃダメなんだ。協会、メディアなど代表チームを取り巻く環境が変わらなければ、今後も何も変わらない。そういう意味で、今回のW杯での惨敗は、日本サッカーにとって再スタートを切る絶好の機会だった。

にもかかわらず、ザッケローニを監督に選んだ協会の原博実専務理事は、責任を取るどころか、何事もなかったかのように次の監督選びを行なっている。メディアもそれを批判しない。結局、辞めたのは契約期間満了となるザッケローニだけ。それも、文句のひとつもつけずに、「ありがとう」と送り出している。

ブラジルと日本ではサッカーの歴史が違うことはわかっているし、僕もなんでもかんでもブラジルのマネをすればいいとは思っていない。

ただ、それにしても今の状況はあまりにもぬるすぎる。日本サッカーを強くするために、4年後のロシアW杯で勝つために、もう少しみんなが真剣に考えるべきじゃないかな。

(構成/渡辺達也)