次から次へといまだ信じられない食肉偽装が蔓延(まんえん)している中国。先日も「使用期限切れ鶏肉」が問題になったばかりだが、もっと危ない食肉偽装が存在している。

現地では「水増し」や「他種の混入」など当たり前の“お家芸”だが、それもまだ一応表示通りの肉がベースになっている。だが、表示まるまる全部ウソ!というゼロベースの偽装“羊肉”があるというのだ。

中国の食品製造の現場に詳しいジャーナリストの程健軍(チェン・ジェンジュン)氏が語る。

「中国庶民にとって一番身近な食肉問題は、街のあちこちの屋台で売られている『羊の串焼き(シシカバブ)』の問題ですね。長さ30cmほどの串に羊肉をたっぷり刺した“中国版ファストフード”で、安いものでは1本2元(約33円)という激安価格で親しまれています。

ところが、羊肉の相場価格と照らし合わせると、どう考えても最低でも1本5元は取らないと採算が合わない。多くの人は『絶対、何かほかの肉だよな……』と思いながらも、見て見ぬふりをして食べているんです」

いったい、何の肉だというのか?

「それが、これらの肉は、実はネコやネズミのケースも多いといわれているんです。ネコやネズミの肉は独特のクセがあって、本来は羊と似ても似つかない味です。しかし、不思議なことにこれを羊の尿に2時間ほど漬け込んで……」(程氏)

もはや、言葉も出ない。

「羊の尿に2時間ほど漬け込んでから、そのまま尿ごと低温でコトコト煮込み、さらに羊の油と精油を擦り込んでひと晩熟成させれば、ホンモノと味もにおいも見分けのつかない“羊肉風味肉”の出来上がり。見事なものですよ」(程氏)

さらに、殺鼠剤から廃油入りまで……

しかし、問題の本質となるのはこれだけではない、と程氏は続ける。

「実は、その材料となるネズミやネコを捕まえる際、安易に殺鼠(さっそ)剤を使っている場合が多いんです。殺鼠剤入りネズミ肉、ネコ肉の串焼きで中毒を起こし、命を落とす人もいるくらいですから」

毒入り小便煮込みネズミ……。もう、どこからどう考えても食べ物ではない。

「まあ、でも“肉”なだけまだマシかもしれません。中国では近年、下水道からくみ上げた廃油、つまりドブ油を精製し、食用油として販売する『地溝油』が横行しています。これも恐ろしいのですが、その精製時の残りカスをベースに、古紙と雑穀粉を加えて固め、着色料と調味料を使って作った“ニセ肉”が流通して問題となっています。こうなるともう、一片の肉も使っていませんから……」(程氏)

ドブ油+古紙=ニセ肉! かつての“段ボール肉まん”も真っ青の偽装方程式だ。

「もちろん、すべての肉が偽装というわけではない。でも、こんなものが横行するなかで、安価な肉の種類や分量を表示どおりに信じる人間がどれほどいるでしょう? 今回の事件発覚後、ホンモノの肉を使っていることが証明されたマクドナルドに人気が集まったのも当然だと思います」(程氏)

「使用期限切れ鶏肉」の問題が発覚して、日本ではマクドナルドが評判を落としたが、中国では「マクドナルドは100%ホンモノの肉だった!」と、かえって人気が集まったというのだから、つくづく異常な話だ。

中国でこれだけ偽装肉が横行しているとなると、やはり日本にも危ない肉が入ってきていると考えざるをえないが……。関西に本社を置く某中堅食材商社で仕入部長を務めるS氏は、こうため息をつく。

「あのマクドナルドの厳しい製品検査基準をすり抜けるとなると、われわれ中小企業には“100パーセントの安全”など保証できない。いくら最善を尽くしても、食品の生産から製品化、そして消費者の手元に届くまで、すべての工程で厳格な全品検査を行なうのは不可能です。正直、何かしらの偽装が発覚してからの事後対応、そしてまた新たな偽装発覚……というイタチごっこは避けられません

中国産をできるだけ避けたとしても、原産地の表示すらない、表示すら信用できないものも……疑心暗鬼は増すばかりだ。

(取材/近兼拓史)