日本初の長編3DCGアニメ『friends もののけ島のナキ』からコンビを組んでいた山崎監督(右)と八木監督

思わず感涙! シリーズ中最高傑作!と、大反響の最新作『STAND BY ME ドラえもん』が全国で公開中。

劇場で観た観客の満足度は「とても面白かった」「面白かった」あわせて、なんと94.4%(東宝調べ)! また、「映画を観て泣きましたか?」という質問にも88.4%が「ドラ泣き」したと回答。初の3DCGによる“ドラえもんワールド”にドキドキ、正直慣れ親しんだアニメ画じゃない不安もある中、期待以上の感動体験!と、みんなにオススメしたくなるはず。

そこで、二人三脚で主に脚本を担当した山崎貴監督と作画の指揮を執った八木竜一監督を公開初日に直撃、Wインタビューで作品世界を語り尽くしてもらった!

* * *

―おふたりに真っ先に言いたいんですが、ズルい!(笑)。みんなに言われません?

山崎 言われますねえ(苦笑)。結構言われた……。ずるいですもんねえ。いい話みんな使ったみたいで。

―原作の短編からおいしいとこ取りじゃないですか!

山崎 でも、「のび太の結婚前夜」と「さようなら、ドラえもん」はねぇ、名作中の名作っていうか必ずみんながあげる有名な作品ですけど。刷りこみたまごとか(「たまごの中のしずちゃん」)、虫スカン(「しずちゃんさようなら」)、「雪山のロマンス」は名作って感じじゃない。クライマックスまでの名作たちの存在感があまりにも強いんで、それだけ集めてずるいって思われがちですけど。

―逆に、違和感なくおいしいとこどりで話を上手くつなげられたっていう……。

山崎 頭とお尻は決まってたんで、中を最初(のび太のところに来るのを)イヤがってたドラえもんが、帰りたくないってなるまでの話にしたいなと。その間をふたりのバディーものとして考えて、ミッションは何が一番いいのかな?って考えたら、しずかちゃんと結婚できる未来を手に入れる、つかむだったんです。それで、ここではこういうことが起きてっていう、のび太らしい、ラブっていうかラブストーリーにふさわしい話がつなぎで見えてきた感じですね。

―その、ドラえもんがやって来るきっかけ、“成し遂げプログラム”をオリジナルで加えたことで最後まで話が効いてますよねー。

山崎 バディーものってそういう構造をとるのが一番自然ですよね。帰りたくないのに帰んなきゃいけなくなるって王道の流れなんで。ふたりとももう離れがたくなってるんだけど、別の世界にいかなきゃいけないっていうのはやりたかった。

『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ、『永遠の0』などの代表作で知られる山崎監督

プレッシャーは全然なかった?

CGディレクターとして代表作に『クロックタワー3』、『バイオハザード0』などもある八木監督

―八木監督は、いきなり山崎監督から「ドラえもんに興味ある?」って電話があったそうですが。そういうプロットをまず聞かれて……。

八木 最初、ロングプロットってその話がつながってる状態できて、すごいなって思ったんですよ。その時はまだ“成し遂げプログラム”は入ってなかったんですけど、その後、本打ちっていって脚本の打ち合わせする段階で入ってきて、より強固になってきたぞって。

―監督自身、すごいドラえもん好きで、全作追っかけてるほどだとか。それこそ、山崎監督に「ずるい!」ってのは?

八木 あはは、まぁでもずるいっていうより、僕は結構一生懸命、その世界をいかに楽しく作るかっていう没入型なんで。あんまり客観的にならないんですよ。肉付けをしっかりやらせてもらいました。

―それにしても当初、「ドラえもん」に関わる責任感とか、初の3Dでもあるわけで期待に対するプレッシャーもかなりあったのでは?

山崎 それが全然ないんです(笑)。そもそも『ドラえもん』でやりたいっていうプロデューサーのアイディアに非常に懐疑的だったというか、「無理じゃねえの?」って。(作品の許諾権を持っている)藤子プロから言われたわけでもなく、たぶんこの作業は無駄になるなって(笑)。そんな簡単なもんじゃないだろって思いながらやってたんで。

―逆にそういうものから解放されて、自分だったらこんなの作っちゃうけどって子供みたいに楽しめた感じ?

山崎 いい話を使って1本の長編を作ってみましょうって課題を出されて。すごくトレーニングに近い感じ? 気持ち入れすぎちゃうと、やっぱり無理だってなった時にすごいショックなわけですよ。でも、その作業自体楽しむって感じでやってたんで。だから逆に本当にやることになった時、一番びっくりしましたね。あ、やるんだ!?って。

―でも、プロット案だけじゃなく、藤子プロには手紙も添えて熱い思いを伝えたとか。

山崎 というか、『ドラえもん』を3DCGでやるんだったら、こういう考え方でやりたいってことを書いたんです。ただプロットだけでいい話つなげただけじゃないかって思われちゃいけないと。ドラえもんっていうのは、あまりにも日常的にそばにいて当たり前のように思ってるけど、本当にいついなくなっちゃっても実はおかしくないものだし、これは家族とかパートナーとかそういうものにも置き換えられる話で。当たり前のように思ってるものが実は大事なんだよってことをちゃんと伝えられる話になるんじゃないかと。

―だからこそ、新たな大長編シリーズの新作じゃなく、この日常的な原作短編からセレクトもして。

山崎 『大長編ドラえもん』のような大冒険にしてほしいって雰囲気もあったんですけど、初めて3DCGで作るって時に、いきなりハレの世界に行くのはすごい抵抗があったんですよ。だって知らないじゃん、この人たちっていう。会ったことのない3Dの人たちが、もうみんな友達でドラえもんも当たり前にいる世界で大冒険だっていうのは、ちょっと僕は無理だなって。日常から始まっていく話だったらやってみたいなと。

―ある意味、初3DCGの入り口としての原点帰り?

山崎 そうですね。ドラえもんが机から出てくる最初の紹介から始めたいっていうのはすごい自分の中ではこだわりとしてあったんで。それにノッてくれる人達だったら一緒にやりたいし、もっと派手なのをって言われたらちょっと無理かなって感覚でしたね。

きっと藤子先生も憧れたはず!

―そういう経緯で八木監督の方にもお話がいって。それこそ周囲からはピクサーにも負けないとか、超えたいというような期待を感じてプレッシャーもあったのでは?

八木 でも、僕も『ドラえもん』作ることに対してのプレッシャーはなかったんです。当然、動かすにもすごく手足短いキャラだから大変とか、顔の表情とかもすごく大変だろうとは思ってたんですけど。それ以上にひみつ道具がまず自分自身見てみたいなって。リアルな表現というのが、たぶん藤子先生も絶対思ってただろうなっていうのがあって、引き出しから出てくるだけでも絶対面白いし。タケコプターで飛ぶのも、どこでもドアとかも。そういう表現がいちいちリアルになることでより楽しくなるだろうなって最初から思っていて。作ってても考えるのが楽しかったですね。

―プレッシャーや責任感より、純粋にそれをできる喜びのほうが?

八木 大きいですね。逆に、今になって作り終わってからのほうが重みを感じてます(笑)。

山崎 大それたことを(笑)。

八木 大それたことをやったんだなって。なんか今、重いですね、ひしひしと(苦笑)。もう結構、いろんなありとあらゆることを気をつけて頑張りましたけど。

―それはもう伝わります! だからこそ、こんな素敵な映像が3DCGで見れたっていう。タケコプターで未来の世界を飛翔するシーンなんて、やっぱりずるい!

八木 あはは、だからあれもね、1コずつのアイテムが憧れを持って藤子先生も描かれてたんだなって。立体化してすごく実感できました。

―あれは憧れますよぉ。追体験したいですもん!

山崎 アトラクションでライドにしてみたいですよね。ハリーポッターとかスパイダーマンとかあるじゃないですか? ああいうのやってみたいなって思うんですよね。

―まさにそう思いました。藤子ミュージアムでそんな『藤子ランド』を!って。

八木 そうですよねー、一番楽しいですよね。作品を作り終わっちゃうと寂しくなっちゃいますよ。できちゃったんだー、みたいな。僕も楽しんでましたけど、今回は周りもみんなやっぱりドラえもんだからってすごくモチベーション高かったんですよ、本当に。スタッフから「こんなのドラえもんじゃない!」って怒られたりとか(笑)。

ドラえもん人形を挟んで、終始にこやかに話が盛り上がる

自分も泣けた、いけるぞ!

―それで、ライティングなんかも相当こだわられたとか。ラスト近くで「しずかちゃんと結婚できるんだー」って、のび太がタケコプターで空を四方八方飛び回るシーンなんか、夕暮れの色使いがまた本当に美しくて……。

八木 ありがとうございます。やっぱり、どっちから直射がきててどっちが陰になっててとかいうのも含めて、かなりあそこはこだわって作ったところだったんで。良かったです、本当に(笑)。

―なんか思わず、『ALWAYS 三丁目の夕日』的世界に入り込みましたから。隣で観てたオジさんも号泣してました(笑)。

山崎 僕は最初の頃の関わりのほうが全然強くて、後半はもう本当に八木が中心になってやってるんで。ある程度、距離があるんですよ。だから結構、できあがる頃にはお客さん目線になれたんですよね。最初のラッシュを観てぐっときて(笑)。おー!ぐっときたよー!って、ちょっと泣いたところもあって。自分で監督してる実写の時にはそんなことないんですよ。なかなか心が動かないんですけど、今回は純粋にお客さんになれた感じがすごくあって。ああ、これ泣いたってことは相当いいぞ、と(笑)。

八木 音楽も入ってなくてオールラッシュの状態のね、絵がほぼできあがったところで、だーっと流してみたんですよ。僕の隣の隣で山崎が観てたんですけど。観終わった時にこっちをふっと見て「泣いたよ、3回! 大丈夫だ!」って(笑)。

―それはほんと手応えありですよ。で、八木監督は?

八木 僕はね、今日(公開初日)観客の皆さんと一緒に劇場で観て。ようやっとお客さんの気持ちになれました。今の今まで試写でもなれなかった。なので。今日ようやっと客観視できました。

―泣けましたか?

八木 いやいや(笑)。泣けはしないですよ。だって相当見てるんだもん。ただ周りの反応で、僕のご褒美(ほうび)はお客さんの心が動いたっていうのがご褒美なんで。たくさんいただきました。

―子供ももちろんですけど、大人のほうが逆に昔のび太だった子供時代に返って、失った大切なものを感じる気がします。

山崎 ほんと、少年時代の自分に会えたって言い方をしてくれる人がいて。それは嬉しいですね。まさにそういう風に見てもらえるといいなって思ってたところもあるし。やっぱ忘れがちじゃないですか。純粋ほどじゃなくても、ああいうものにワクワクしてた感じって。

八木 本当にね。日本で3Dの映画作るってなると、どうしても食わず嫌いな人がまだいて、僕はもっとそうじゃなく観てほしいなって思ってたんです。そこに『ドラえもん』の話がきたんで「あ、これはいい題材をいただいた。これを作れば本当に老若男女の人に見てもらえるんじゃないか」って思って、3年間頑張ってきたんで。今日一緒に観てきた時に結構お年寄りからファミリー層もカップルもいたし。良かった良かったーって。

未来の世界をタケコプターで飛翔! (C)2014「STAND BY ME ドラえもん」製作委員会

未来はきっと明るいんだ!

―そこで、一番最初に言われていたとおり、ずっとドラえもんがいるわけじゃないってメッセージもちゃんと伝わって……。

山崎 あの未来のシーンで、大人ののび太がドラえもんの近くまで来ちゃって、会わせるって選択肢も会わせないのもあったんだけど。あのキャラクターが会わない、そのほうがいいって選択をしたんですよ。僕がそうさせたわけじゃなくて。逆にそのシーンを作った時に、自分もこっちだと思った。またドラえもんのとこに行って「やぁ久しぶり!」って言うんじゃない自分に気づいて、そのときに初めて「ああ、僕はドラえもん卒業してるんだ」って。ちょっと切なかったですけどね。

―のび太がそれを監督に言わせたという感覚だったんですね。

八木 でも実際、大人になってまでドラえもんが横にいたら幻滅ですよね(笑)。さすがにどんなダメダメ男くんでも。絶対大人だったらいずれは離れていくべき。子供の時の大切な友達っていうものは、やっぱり小学校を卒業するあたりとかでね。

―夢はあるけれど、ちゃんと大人になるってことも提示して突き放さないとですよね。

山崎 ただ、このキャラクターたちは正しい道を選んでくれる気がするんですよ。あまりにも膨大な原作もあるし、藤子先生の考え方みたいなものが確実に中に入ってるんで。普通に考えればわかるっていうか。大人になってドラえもんと一緒にいちゃダメだろうって、すごく原作が持ってる力でちゃんと正しい方向にキャラクターたちが選んでくれる。そういう感覚はあったんで、それに添っていけばいいのかなってやってました。

―今の社会でいうと、夢見れる未来じゃなくなってる現実もあって。逆にそれだけ『ドラえもん』の世界が必要とされてる希望みたいなのもありますよね。

山崎 あまりにも僕らの時代はディストピア(反ユートピア)が格好良すぎたんで。映画界自体がね、そっちばっかりやってしまった気がするんだけど。最近の誰もが未来は暗いと言ってる現実だと、せめて『ドラえもん』だけでも未来は明るいんだって脳天気に主張していかないと。やっぱり映画の役割ってそういうこともある気がして。絶対ディストピアのほうが格好いいし、頭良く見えるんだけどね(笑)。そこはやっぱり子供達に、大丈夫きっと明るくなるってことを伝えていくことは大事なんじゃないかな。

八木 最近、大人になりたくない子供も多いような気がしますよね。だけどまぁ、僕らが小学校の時って大人に早くなりたくなかったですか? なりたかったよね? いろいろ怒られなかったりすんじゃねえかとか。布団に入ったまま物食っていいんだとか、いくらでも買い食いできるぜとか(笑)。

山崎 お金も自由に使えるし(笑)?

八木 だけど今の子供たちって、子供のままのほうがいいやっと思ってる気がしてしょうがないんだけど。でもやっぱり大人も楽しいよって言ってあげてった方がいいような。

―大人って大変そうだもんねっていう。お父さん見てもそうだし、格好良くない(笑)。確かに疲れてる感じばっかり伝わっちゃってるかも。

八木 だから、楽しい大人もいるよっていうね。どんどん見本となってあげたいなって気持ちはありますけども。『ドラえもん』って、やっぱり親子で共通言語になりやすいし、世代を超えて語れると思うんで。

―だからこそ、この3DCGSTAND BY ME ドラえもん』を広くみんなに見てもらいたいなって素直に思います! なんたって、自分の作品で3回泣けるんですから(笑)。本当に楽しい話をありがとうございました!

■山崎貴1964年生まれ。長野県出身。1986年、白組入社。2000年『ジュプナイル』で監督デビュー。2005年には『ALWAYS 三丁目の夕日』が大ヒットとなり各映画賞を総なめにし、その後もシリーズ化。2010年『SPACE BATTLE SHIPヤマト』、2013年『永遠の0』と話題作を手がけ続ける■八木竜一1964年生まれ。東京都出身。1987年、白組入社。CMのデジタルマット画やゲームムービーのCGディレクションに携わり、代表作に『クロックタワー3』、『バイオハザード0』ほか。CX『もやしもん』などの演出も務め、2011年には山崎監督とコンビを組んだ『friends もののけ島のナキ』で監督デビュー

3DCGSTAND BY ME ドラえもん』は全国ロードショー公開中(2Dも同時公開) 

のび太とドラえもんに別れが!? (C)2014「STAND BY ME ドラえもん」製作委員会

(取材・文/週プレNEWS編集部、撮影/五十嵐和博)