「世の中やいろいろなことに牙を剥(む)いている原作に対しても挑戦した」と監督が語った今作。衝撃的なシーンも多く、宮沢も主役を受けるか戸惑ったそう

「(このキャスティングは)ちょっと褒(ほ)めてほしい。実現しただけでも僕の仕事はほぼ終わったんじゃないかな」

といきなり自画自賛?で自慢気な発言をしたのは吉田大八監督。

年始にNHKでドラマ化され原田知世主演で話題となった『紙の月』が、今度は映画化(11月15日公開)。21日に都内で行なわれた完成報告会見での発言だ。

その自信も当然、主演には宮沢りえ、脇を固める女優陣は小林聡美大島優子と魅力的なキャストが実現、会見で吉田監督とともに顔を揃(そろ)えた。

原作は第25回柴田錬三郎賞を受賞した同名小説で、『八日目の蝉』など次々と映像化され大ヒットを生み出している角田光代の作品。一見、銀行員として、平凡で犯罪とは縁のないように思える主人公の梅澤梨花が巨額な横領事件を巻き起こすストーリーだ。

宮沢が映画の主演を務めたのは、なんと7年ぶり! 本人も「ふつふつと溜めておいたものを本当に出し切ったという思いがあります。画面には本当に見たことない自分の顔があって衝撃でした」と、今作に対する強い思いを明かした。

小林と大島は原作にはなかった主人公の同僚役を務めているが、宮沢と小林は意外にも初競演。

緊迫した場面も多い今作だが、なかでもふたりが対峙(たいじ)するシーンは空気が張り詰め、緊張感MAXだったとか。しかし、演じていたそれぞれの心の内はというと……。

「見方によると戦っていると思うんですけど、共感しあったりする部分もあったりして。そういう意味では役以上に宮沢さんと心が通じ合ってお芝居できた」と、小林は満足気。

一方、宮沢も「小林さんのファンでご一緒したいと思っていたので、もっと穏やかなシーンがいっぱいある作品で共演したかったけど、あのシーン自体、興奮のMAX状態にいながら、静かなエネルギーを出し合うっていう素晴らしい時間でした」と、互いに女優として最高の時間を共有したようだ。

この競演だけで「褒めてほしい」と監督に絶賛された女優陣も皆笑顔でトーク

大島優子は先輩ふたりに感心しつつ…

「ズルイ男性」という大島のことばに戸惑う吉田監督

そんな名女優ふたりを前にした大島は「大先輩でも(監督の言葉を)すごく考えて調理して、そしてテイクで出すんだな」と、大きな経験になったという。

また、吉田監督に対しては「目線ひとつにしても背筋にしてもすごく演出が繊細」と驚きながらも、ボソボソと指示する姿に「1対1でコミュニケーションして、監督の言葉がスッと耳に入ってきて心のなかにトンっと落ちてくるので、その加減を意図してやってるのか本能的にやってるのか、ズルイ男性だな」と感じたそうで、そんなタイプに魅了されてしまった一面も告白した。

この日は原作者の角田も登壇。「度肝を抜くような映画。何ひとついいことは起きていないんですけど、観た後にすごく爽快で、非常に不思議な気分。私にはとても書けないです」と賞賛。

3人の女優の演技はもちろん、その衝撃的な内容は女性の怖さを垣間見るという意味で男性にもかなり気になる作品であることは間違いない。

「私には書けない」という角田に対して「書いてください」とツッこむ宮沢