女性施設ではスタッフも全員女性。講師の人も以前は依存者だった

覚せい剤取締法違反の罪(所持、使用)で起訴されたASKA(本名・宮崎重明)や、ほかの危険ドラッガーたちは、薬物回復施設でどのような治療を受けているのかーー。

■元女優が語る、芸能人がクスリに手を出す理由

欧米に比べて日本の薬物依存対策は25年遅れているといわれるが、薬物治療プログラムに長(た)けた米国から回復治療法を取り入れた施設もある。奈良、大阪、沖縄、セブ島(フィリピン)に拠点を持つ「GARDEN(ガーデン)」だ。

ここでは、アルコール依存症治療で使われている教材(リカバリー・ダイナミクス・プログラム)を応用し、12の手順で依存症からの脱出を目指す。薬物依存者を説得して治療施設に連れてくるのは大変なケースが多い。そんなときは、専門の訓練を受けたインタベンショニスト(介入士)を派遣することもできるという。

8月中旬に奈良県大和高田市の施設を訪れると、13人の入寮者が輪ゴムを使ったワークを行なっていた。

ふたりひと組で輪ゴムを引っ張り合い、どちらかが手放すまで続ける。放されたほうは当然痛い思いをするが、そこから司会者がふたりの感情を引き出し始める。

「それぞれどんな感情で引っ張っていたか?」「ゴムに対する感情は?」「相手に対する感情は?」などと質問を重ね、現実社会のどういった場面で同じ感情を体験したことがあるかまでを考えてもらう。そして、ふたりとも痛い思いをしない方法について問いかける。

そこから「正当性を主張し続けることは争いしか生まない」ことを伝え、ゴム遊びを通して、依存者に自分でも気づかない感情の動きに気づいてもらうのが狙いだ。

ゴムを引っ張り合うワークを通じてお互いの感情を分析し、自己中心の考えを改める

笑い声とともに進むワーク

笑い声とともに進み、全員が最後にハグをしてワークは終わる。一見、深刻な依存症患者が集まっているようには見えない。だが、スタッフの酢谷映人さん(24歳)は、静かに自分の過去を打ち明けてくれた。

「学生時代に大麻、MDMA、覚せい剤などに手を出しました。大麻所持で留置所に入れられたのをきっかけにやめようと決心しましたが、釈放されたその日に出所祝いだと仲間に勧められたマリフアナをつい吸ってしまったのです。そこからは売人の家に住み着き、寝る時間も惜しんで覚せい剤を使い、そのうちクスリが切れると食事もできない体になりました」

GARDENとつながったのは2年前だ。

「初めは『ヤク中が集まって何してんねん』ぐらいに思っていて、施設につながってからも覚せい剤を使っていたほどです。ですが、同じ悩みを抱える仲間が関わり続けてくれ、今では2年半クリーン(薬物を使わないこと)な状態が続いてます」

依存症は一生続く病気だ。酢谷さんも、自分の内面に問題が起きると今でも薬物を使いたい気持ちが起きる。そんなときは、リカバリープログラムで身につけた回復の道具を使うことで衝動を抑えているという。

GARDENは6月に、奈良県橿原(かしはら)市に女性専用の依存症回復施設も開設した。男女共同の施設だと共依存を生んでしまい、回復の足かせになる場合が多いためだ。

取材に訪れたときには、8人の女性依存症の入寮者が、パラダデカホン(感情の瞬間棚卸しストップ)と呼ばれるワークをしながら、依存症からの回復治療を進めていた。

実像の自分に自信が持てない芸能人

GARDENの運営法人には、精神保健福祉士の資格を持つ元女優の高部知子さんがスタッフとして関わっている。高部さんは芸能人が薬物に手を染める心理をこんなふうに解説してくれた。

「芸能界は、自分が特別視されなければ生き残れない特殊な場所のためプレッシャーが大きい。周りがつくり上げた虚像が大きすぎて、実像の自分に自信が持てない人がほとんど。経済的にも余裕があるから、つい薬物に手を出しやすいのです」

GARDEN代表の矢澤祐史氏(左)も依存症に苦しんだ。高部知子さん(右)は「ASKAさん、私に薬物を乗り越える手助けができれば。連絡ください!」と呼びかける

薬物依存者が増える一方で、ダルクやGARDENのような回復施設は圧倒的に足りない。昨年、法制定された、刑期の一部を猶予して出所させ、早期の社会復帰を促す「一部執行猶予制度」が2年後に施行されれば、その対象となる薬物依存者の受け入れ先がもっと不足することも予想される。

さらに、依存症からの回復者が社会復帰するまでの手助けをする施設となると、ほとんどない。薬物乱用防止協会では、障害者自立支援法に基づいて、回復者にコーヒーの移動販売業務を委託している。だが、こうした就労組織は全国に3ヵ所程度しかないという。

今の日本は、薬物依存症の受け皿が小さいなかで、依存患者だけがどんどん増えていく危機的状況だ。もはや、取り締まりをしていれば薬物問題が解決する次元ではない。薬物使用による悲惨な事件をこれ以上引き起こさないためにも、早急な対策が必要な時期に来ている。

(取材・撮影/桐島 瞬)

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