駿台予備学校(駿台)、河合塾と並ぶ三大予備校のひとつ、代々木ゼミナール(代ゼミ)が、全国の校舎の7割にあたる20校を来春にも閉鎖することが発表され波紋を呼んでいる。

対象は仙台、大宮、横浜、京都、神戸、小倉、熊本などの校舎で、閉鎖する校舎では来春以降の生徒募集を行なわない。この大リストラ後は東京の本部校、札幌、新潟、名古屋、大阪南、福岡の各校と、芸術大受験専門の造形学校のみが残る。

各メディアは少子化に加え、不況で受験生の国立大志向や理系志向、さらには現役志向が高まっているなか、私立文系を得意分野とし、現役生重視へのシフトが遅れている代ゼミの体質が業績悪化を招いたと報じている。

だが、このリストラで経営がV字回復できるかといえば、先行きは不透明だ。代ゼミの前には今、最先端のビジネスモデルで躍進中の新興勢力が立ちはだかっているからだ。

それが、テレビCMでも知られる東進ハイスクール(東進)である。データベース本『塾・予備校〈2015年度版〉』(産学社)の監修者であり、受験業界に詳しい千葉誠一氏が言う。

「東進が画期的だったのは全国展開にあたり、自前での地方校設立にこだわらず、各地域で評価が高い進学塾と提携を結んで系列校としたこと。そうした系列校や直営校へ、東進の人気講師による映像授業をオンデマンドで配信しているのです。この方式だと、不動産への投資が少なく済み、自前の校舎でも大教室を造らなくていい。つまり講義を全国規模、かつ低コストで実施できます」

東進がひとり勝ちしているシステムとは

一方、生徒の側としては大都市の予備校に入学しなくても、近場で全国レベルの授業を好きなときに受講できる。

こうしたシステムの成果と、全国津々浦々の加盟校の合格者数も合わせてカウントできるネットワークづくりにより、今や東進は東大現役合格者数において全国トップの予備校にまで上り詰めたのである。

「その実績がさらなる現役受験生獲得へとつながる好循環を生み、日本中の予備校が生徒集めに四苦八苦しているなか、東進だけがひとり勝ちを続けているのです」(千葉氏)

そう、苦境に立たされているのは代ゼミだけではない。理系や国立大に強く、受験生のニーズに沿っているとされる駿台や河合塾でさえ、大教室型のライブ授業が主体だし、直営の地方校を多く抱えている。そのため新しいビジネスモデルへのシフトが進まず、不動産維持費などコスト負担が重くのしかかっている状態なのだ。

精神科医、受験アドバイザーなど多方面で活躍する和田秀樹氏が指摘する。

「代ゼミは創業者が実業家出身なのでビジネスセンスがあり、全国の校舎を駅前の一等地に建てていて、いつでもほかの業態に転換できるようにしています。だから閉鎖した校舎にも、すぐに買い手がつくでしょう」

実際、代ゼミには過去、京都校の別館をホテルにするなど(2010年)、複数の校舎や寮を転用した実績がある。

「しかし駿台や河合塾には、そんな商売っ気はない。代ゼミほど好立地の不動産を持っていませんし、それを転業させるノウハウもない。しかも地方の地価は、これから下落傾向になるはず。考えようによっては、代ゼミは手持ちの不動産を一番高く処分できる今、うまく“損切り”したともいえる。一方、駿台や河合塾は、もし不採算校の閉鎖を検討するような局面になった場合、いろいろと潰(つぶ)しが利かない状態なのです」(和田氏)

今回の代ゼミの大リストラは、やがて訪れる予備校業界の再編への、序章にすぎないのかもしれない……。