今年6月末から8月頭にかけ、ハワイ諸島を舞台に行なわれた環太平洋合同軍事演習「リムパック2014」。今回の最大の話題は、アメリカとその同盟国が中心となるこの演習に、史上初めて中国軍が参加したことだった。

なぜ、アメリカは“仮想敵国”の中国を招待したのか? なぜ、中国は参加を受諾したのか? ひとつは、「敵対しすぎたくない」という両国の政治判断。もうひとつは、お互いにノドから手が出るほど“相手の情報”が欲しかったからだ。

今回のリムパックに参加した某国海軍関係者はこう語る。

「米海軍艦隊は、中国艦隊をわざわざグアム島付近まで迎えに行き、ハワイまで一緒に航行した。その過程で、操艦技術や艦隊の連動性など中国海軍がどんなレベルにあるかを逐一(ちくいち)観察していたはずだ」

もちろん中国も目的は同じで、自軍の重要機密を守りつつ、米軍や自衛隊の情報を虎視眈々(こしたんたん)と狙い続けていた。

7月某日、“中華イージス艦”と称される中国海軍の新鋭艦「海口(かいこう)」と、海上自衛隊の最新ヘリ空母「いせ」が、ともにメディアや地元住民向けに一般公開された。現地で取材したフォトジャーナリストの柿谷哲也(かきたにてつや)氏は、「海口」の様子をこう振り返る。

「受付からいきなり、軍用拳銃と自動小銃を持った武装兵。最初は丁寧な対応でしたが、時間が経つにつれ、あちこちから『ここは撮るな!』『あっちへ行け』といった居丈高(いたけだか)な声が聞こえてきました。民主主義国では軍人は“公僕”ですが、中国では一般大衆よりはるかに偉い特権階級。やはり本性は隠せなかったようです」

艦上では、3人の私服監視員が常にビデオカメラを回し続けて取材陣を徹底マーク。なんと、ノートに書いたメモの内容まで撮影されたという。

自衛隊も異例の防衛手段でシャットアウト

同日午後、今度は海自の「いせ」に、中国側の関係者3人が乗り込んだ。そのメンバーは、海軍中佐の男性、大尉の女性。そして、もうひとりは……なぜか、リーバイスの白Tシャツを着た謎の男だった。

「軍同士が交流する場合、制服着用は最低限の礼儀。彼はおそらく軍人ではなく、中国共産党の情報関係者だと思います。日本語や英語に堪能なようでしたから、海自隊員や日本メディアが周囲で何を言っていたか、耳をそばだてて聞いていたのでしょう」(前出・柿谷氏)

ただ、このときは海自の“防衛力”が一枚上手(うわて)だった。航空機やヘリを運用する甲板のエレベーターは、プロの軍人なら乗っただけで艦の能力を推測できるため、この日は使わせずに階段で移動。そして、艦内を前後に貫く航空機格納庫の整備区画は、なんと大型シャッターで完全閉鎖していたのだ。

「彼らが最も知りたいのは、『いせ』がオスプレイや次期主力戦闘機のF-35Bを運用できるかどうかという点。海自はその判断材料を一切与えませんでした。海自の乗組員でさえ、『あのシャッターが下りているところは初めて見た』と言っていました」(柿谷氏)

それでも中国側は、艦上で何度も「F-35Bを載せるのか?」と質問して周囲を呆れさせたが、「いせ」の乗員はのらりくらりとけむに巻く。艦を下りる際、自衛官の敬礼に対して答礼すらしない彼らの無礼さには、居合わせた他国の軍人も驚いていたという。

演習終了、米軍が中国に報復のイヤがらせ

そして後日、演習が終了し中国軍が真珠湾を離れる日を柿谷氏が独自に情報をキャッチ。迎えた8月4日。

午前8時、まず中国海軍のフリゲート艦が港を出た。しかし、後続はなぜかカナダ艦や米艦。しばらくすると2隻目の中国艦がやっと出たが、またも後続は他国艦。結局、中国の全4隻が出港するまでには、なんと7時間を要したという。

「これは明らかに、リムパックの主催者で出港順の決定権を持っている米軍のイヤがらせ。というのも、中国はこのリムパックに“スパイ船”を派遣していたんです」(柿谷氏)

招待を受諾して4隻を演習に参加させながら、沖合では別のスパイ船がこっそりと各国艦のレーダー用電波や通信用電波の周波数と内容、そして航行時のスクリュー音を“盗聴”――。途中でその存在に気づいた米軍からの問い合わせに対しても、中国側は最後までだんまりを決め込んだというのだ。

「国際的な軍事演習で、参加国がスパイ船を出すというのは極めて異例です。米海軍の関係者は、オフレコの席で『パーティに招待された人間が、裏口から泥棒に入って寝室から物を盗むようなものだ』と憤慨していました」(柿谷氏)

今回、互いの手探りでわかったことーー手段を問わず、盗(と)れるものはすべて盗り、自分の情報はなんとしても盗らせないーー。不気味な印象を残して、中国艦隊はハワイを去っていった。

(取材協力/小峯隆生)

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