トヨタが8月25日から、四駆SUV「ランドクルーザー(ランクル)70シリーズ」を再発売した。

1984年に登場し、2004年に国内販売を終了した、通称“ナナマル”。発売30周年を迎え、今も多くのファンが存在することから、来年6月末生産分までという期間限定で日本市場にカムバックしたのである。

とはいっても、時代遅れの旧車の復刻ではない。このナナマル、海外では今もバリバリの現行モデルで、約100ヵ国で販売されている。それどころか“世界で最もタフなクルマ”として絶大な信頼を集め、過酷な環境下で大活躍しているのだ。

ランクルへの造詣(ぞうけい)が深く、世界各地でナナマルが働く現場を取材してきたカメラマンの難波毅氏が、同車ならではの使われ方の数々を挙げてくれた。

「中東のUAEでは漁師が地引き網を引く動力として、毎日砂浜を何往復もしています。もちろん獲れた魚はそっくり荷台にのせ、街へと運ぶ。当然、そのナナマルは海水まみれになるのですがびくともせず、親から子へと引き継がれていくのです」

赤道に程近い、アフリカはタンザニアにある広大な動物保護区では、24時間体制で監視を続けるレンジャー隊に採用されている。

「1台当たり5、6人の隊員が乗り込み、未舗装の土地を毎日200km以上パトロールしていましたね。彼らは不法侵入者を発見すると、猛スピードで追跡するのです」(難波氏)

そして、今も昔も同車の大マーケットであるオーストラリアでは、こんな極限状態での任務を担っている。

「鉱山の地下約1500mの坑道で、人や荷物をのせて走り回っています。湿気が高く、酸性水や塩水を浴びながら上り下りを繰り返すので、さすがのナナマルでも3、4年しかもたない。しかし、これがほかのクルマだと半年で動かなくなってしまうので、必然的にナナマルが使われるのです」(難波氏)

ナナマルは日本人の勤勉さの結晶

世界を見渡せば、SUVの先駆者であるジープ(米)やランドローバー(英)など、タフさを売りにするクルマはほかにもある。そんななかで、なぜナナマルだけが地球規模で選ばれ、評価されているのか?

「基本構造はライバル車同様、昔ながらのオーソドックスなもので、決して画期的な設計というわけではありません。しかし、トヨタはナナマルの先代である40シリーズ時代も含め、世界のどこかでランクルに不具合があったと聞けば、技術者が現地まで飛び、どういう状況で壊れたのか調査したり、故障した部品を日本に空輸するなどしてフィードバックを行ない、その結果をもとに長年こつこつ改良を続けてきたのです」(難波氏)

こうした地道な積み重ねがナナマルの傑出した耐久性を築き上げ、その結果、世界中で売れたことで、他メーカーの及ばない場所にまでスムーズな部品供給を行なえるという好循環を生み出し、さらに人気と信頼を高めていったのだ。

「私は世界各地、それもクルマの故障が即、死につながりかねないような場所で、『何があっても無事に帰ってこられる相棒は、これしかない』という賛辞を何度も聞きました。ナナマルって、日本人のまじめさや勤勉さの結晶のようなクルマだと思うんですよ」(難波氏)

そんなクールジャパンの元祖ともいえるナナマルの国内再発売価格は、税込み360万円(バンタイプ。ピックアップは同350万円)。今どきの快適装備など皆無の武骨な実用車だが、同時に、世界一の性能を誇るレジェンド的存在でもある。

果たして、この値段、高い? 安い?