テニスの全米オープン決勝は、マリン・チリッチ(クロアチア)が錦織圭(にしこり・けい)を下して、幕を閉じた。実はこの決勝、ともにグランドスラム大会初優勝をかけた一戦としてはもちろん、一部では「日中アパレル対決」としても注目を集めていた。錦織のユニクロに対し、チリッチは中国のスポーツ用品メーカーである「リーニン」のウエアに身を包んでいたのだ。

日本ではまったくなじみのないこのリーニン、一体どんなメーカーなのか?

同社は1990年に、84年ロサンゼルス五輪の金メダリストである中国の元体操選手・李寧(りねい)によって創業された。リーニンとは、李寧の中国語読み。そして、ロゴマークは彼の名字の頭文字の「L」をデザイン化したものだという。

海外のスポーツブランドに詳しい大手商社社員A氏が語る。

「あのロゴはナイキのパクリだといわれていて、中国人でさえ誰もがそう思っています(笑)。というのも、李寧会長(現在の役職)が、会社設立当初からナイキのようなスポーツ用品メーカーになることが目標だと、半ば公然と語っていたからです」

その意気込みどおり、巨大な国内市場と中国の経済成長を追い風に、同社は国内最大のスポーツブランドへと成長した。

そして、リーニンといえば忘れてはならないのが、2008年北京五輪の開会式。聖火リレーの最終ランナーとして宙を飛び、聖火台に点灯した地味なおっさんを覚えているだろうか?

「彼こそが李寧会長です。北京五輪公式スポンサーの契約をアディダスに取られたリーニンは、会長の中国スポーツ界へのコネを駆使し、開会式最大の見せ場に李寧自らが露出するという裏ワザで世界へ自社をアピールしたのです」(A氏)

札束で頬をひっぱたいて有名どころを釣る

このことからもわかるとおり、同社はPR戦略に長(た)けている。国内業績で蓄えた莫大(ばくだい)な資金を元手に、近年は積極的に海外の著名選手、チームと契約を結んできた。

NBAのシャキール・オニール(昨年引退)やドウェイン・ウェイド、陸上・女子棒高跳びのエレーナ・イシンバエワ、さらに、かつてのサッカー・スペインリーグのエスパニョール、セビージャなどが代表例だが、真のグローバル企業であるナイキやアディダスとまともに競っては勝てないので、ピークを過ぎた大物や中堅どころのチームに狙いを絞って、大金で誘うのが特徴だ。

そんな作戦の一環としてテニス界への足がかりにしたのが、チリッチだったというわけ。テニス誌編集者のB氏が言う。

「全米開幕前までは世界ランク16位だったことからわかるとおり、チリッチはまだ真の一流選手とはいえません。グランドスラム大会でシードされるレベルの男子選手で現在、リーニンを着ているのは彼ひとりだけだし、女子でも今回の全米でシングルス4強入りしたペン・シューアイ(中国)が目につく程度。テニス界でのリーニンの存在感は、まだ薄いですね」

だからこそチリッチの全米制覇を機に、テニス界へも攻勢をかけたいところだろうが、そうもいかない事情が……。

「中国国内景気の冷え込みや、他社との競争激化などが原因で、ここ3、4年のリーニンは業績不振に陥っているのです。アメリカにあった直営店は閉鎖され、東南アジア事業も縮小傾向にあります」(前出・A氏)

札束で頬をひっぱたいて有名どころを釣る得意技も、今後は封印するしかない?