(上)ぱっと見は先代と大差ないが、(下)立奏時にパイプの長さを調節できるクリップを新たに装備するなど、細かな工夫があちこちに施されているのだ

鍵盤ハーモニカの代名詞であり、小学校の音楽の授業でおなじみだったヤマハの「ピアニカ」(32鍵モデル)がモデルチェンジし、新型が10月1日に発売された(希望小売価格・税込み7128円)。

日本で開発されたピアニカは、1961年に初登場。今回の新型機の先代にあたるモデルが発売されたのは84年。以来、ロングセラーとして同社のカタログを飾り続けてきたが、このたび30年ぶりの世代交代となった。

30年! 他国に比べて工業製品の製造サイクルが短い日本で、先代がなぜそこまで不変であり続けられたのかがそもそも気になり、ヤマハ広報部に聞いてみた。

「ピアニカは、ある程度完成の域に達している楽器。エレクトーンやシンセサイザーといった電子楽器のように技術革新が早く、すぐに前モデルが古くなってしまうものではありません。ただ、10年、20年以上の期間、定番化しているものはほかにも複数ありますが、たいていは同じ品番の中でマイナーチェンジがなされています。30年にわたり、まったく変わらずに同じモデルが継承されたというのは、当社の楽器の中ではピアニカ以外、あまり例がないと思います」

そんな定番中の定番のリニューアル話が、なぜここへきて持ち上がったのだろうか。

「少子化による市場縮小に加え、従来は学校への一括販売が主流だったのですが、近年は個別に量販店やネットで購入される方が増えています。他社の鍵盤ハーモニカもあるなか、積極的にピアニカを選択していただくため、さらに魅力ある商品を目指してモデルチェンジを決断しました」(ヤマハ広報部)

より実用的な形状へと進化した新型ピアニカ

完成した新型はぱっと見、先代と大きな違いはない。楽器としての基本構造や素材も同じ。そしてカラーバリエーションも多少の色みの差こそあれ、ブルーにピンクと、これまた先代と同じ。しかし、開発にかけた2年の歳月はダテではない!

まず本体はプラスチック部分を薄くして50g軽量化すると同時に、形状の丸みを変更したことで、立奏時に子供がより持ちやすくなった。それでいて、以前から支持されてきた音色や耐久性は維持している。また、収納ケースについても、持ち手を子供の手によりフィットしやすい形状に変更。さらに学校のロッカーなどで自分のピアニカを簡単に見つけられるよう、ケースの底面だけでなく横面にも、名前シールを貼るスペースを新たに設けた。

そして、ピアニカ最大の視覚的特徴ともいえる長いパイプにも、手が加えられた。

「従来の立奏用の吹き口では鍵盤が見えにくく、そちらを使わずに卓奏(机の上に置いて演奏すること)用パイプを首にかけて吹いているような子供もいました。これが不便そうに見え、安全面でも心配なことから、パイプの本体接続部にクリップを設けたのです。クリップにパイプを挟むことで長さの調節が可能で、パイプが邪魔にならずに鍵盤を見ながら演奏できます。そして卓奏での待機時には、パイプの置き場所に気を取られることがなくなり、また、吹き口が机上につかないため衛生面でも優れています」

まさに、かゆいところへさらに手が届いたようなカイゼンなり。

季節は芸術の秋。日本メーカーの気配りの細かさを実感しつつ、大人の趣味としてピアニカに再チャレンジしてみるのもアリかも!?