あまりに甚大な被害を及ぼした御嶽山噴火。しかし、約75万年前から、この火山はマグマ噴火も繰り返してきた。

今回は、山体の下に潜むマグマ熱で地下水が高温化し気化・膨張した「水蒸気噴火」だったとされており、ひとまず安心との報道もなされているが、これは大きな見当違い。その影響でマグマ活動が高まり、次は大きな「マグマ噴火」が起こる恐れもあるのだ。

注目すべきは、今回の水蒸気噴火が前回、前々回よりも長期化の傾向を見せ始めていること。これは山体内部か直下でマグマ活動が高まり、熱を供給し続けているからと考えられる。

となると、気になるのが今年5月から御嶽山のすぐ北側、飛騨地方で始まった「群発地震」との関連だ。その震源は深さ2~4kmの浅い場所に限られ、地域住民の間では関連を危惧する声が高まっていた。当時の本誌現地取材でも、この地域の温泉水の温度が2~3度上がったという証言を得た。

現在の地球科学では、火山噴火が、その近い場所に地震を引き起こすという理論は立証されていない。しかし逆に「地震が火山噴火を引き起こす」という理論は認められるようになってきたという。そうなると、この法則性が飛騨群発地震と御嶽山噴火にも当てはまるのか? 静岡大学の地震学者・生田領野博士に聞いた。

「地震の揺れが、火山噴火の誘発に関係するという学説は確かに注目されています。ただし、多くの地震→噴火のセットを統計的に処理して関連があるということは比較的容易ですが、現在の科学的知見では今回の噴火活動が3・11の地震によってトリガーされたものかどうかを判断することはできません。

また、温泉の温度上昇については、温度が上がったことが直接マグマの上昇を表しているとは思えません。群発地震の揺れが原因で、地下に新たに水の通り道ができることもあるからです。他方で地下のマグマ移動が群発地震の原因となり得ることは知られており、飛騨の群発地震の原因がマグマであることは現時点では否定も肯定もできません」

このように飛騨群発地震と御嶽山噴火には因果関係があるとは断言できないが、太古から火山活動が繰り返されてきたこの地方では、比較的浅い場所にマグマが大量に潜み、地上へ出ようとしていることは間違いない。

ちなみに「地震→火山噴火」の考え方は、「東日本大震災」の直後から急に認知度が高まった。M9.0の超巨大地震で日本列島の地殻が大きくゆがんだために、地下のマグマだまりにも圧力がかかり、多くの火山が4年以内に噴火する可能性が高いと、「日本火山学会」も公式に表明して大きな話題を呼んだ。

富士山が先でも不思議はなかった?

事実、東日本大震災以降、東北地方南部から南西諸島にかけての広い地域で多くの火山が活動を強めてきている。

本州中央部では、富士山でマグマ活動が強まり(2011年3月~)、箱根・大涌谷では群発地震(2013年2月~)が発生。以後、伊豆大島北部群発地震(2013年後半~)、浅間山周辺の地殻変動の増大(今年3月~)、草津白根山の火山性地震増加(今年6月~)など、不穏な動きは強まるばかりだ。

また、九州でも新燃岳大噴火に続いて阿蘇山と桜島が活動を強め、南西諸島では今年8月から口永良部島(くちのえらぶじま)が多量の噴煙を上げ始めた。

そして今回の御嶽山噴火については、噴火時期を琉球大学名誉教授の木村政昭博士(理学)が、昨年前半に「2013年±4年」と予測していた。木村博士本人はこう説明する。

「中部地方の火山は、御嶽山だけ噴火時期を予測発表しました。その理由は、かねて私が指摘してきた『伊豆諸島の火山帯→富士火山帯』という南東~北西方向への直線的なつながりです。この火山帯のマグマ活動は、日本列島の西半分が乗るユーラシアプレート下に、南側からフィリピン海プレートが潜り込む運動が源です。火山学会も主張し始めた『4年以内に噴火する可能性が高い』というのは、この火山ラインで最も顕著に進行しているのです」

さらに、木村博士は続ける。

「今回の御嶽山の新火口群が、おおむね南東-北西方向に連なって現れたことも単なる偶然とは思えません。関東・東海・中部地方の火山は、この南東-北西ラインに沿った運動メカニズムで噴火が起きている可能性が高いのです」

実際、富士山も、真上から見た姿は完全な円錐形ではなく、南東-北西方向へ引き延ばされている。最近では北西山麓で大規模雪崩が発生したり、河口湖をはじめとする北麓で主に見られる水位異常も、この運動メカニズムと関係しているとみられているのだ。

「実は富士山のほうが、御嶽山よりも先に噴火するだろうと私は推測していました。今、気象庁が公式発表している火山観測データの中で、最も激しい『火山性地震=マグマ流動』が起きているのは富士山だからです。

今は山体下約10kmでなんらかの障害物にぶつかったようなマグマ流動が見られますが、これを突破するのは時間の問題で、地下10kmから山頂にかけて続発中の通常地震で生じた無数の亀裂から、全方位的な山体崩壊が起きるかもしれません。御嶽山の噴火活動再開は、その前触れのような気もします」(木村博士)

今回の御嶽山噴火を機に、なにかを早急に見直し対策を講じる必要に迫られているのは間違いない。

(取材/有賀 訓)

■週刊プレイボーイ42号(10月6日発売)「御嶽山は富士山崩壊の導火線なのか?」より